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missing piece 〜その後〜 |
綾人が捜査から戻り、特機本部を捜査課のエリアへ向かって歩いているときだった。
「綾人おにいちゃ〜〜〜〜ん!!!」
自分を呼ぶ幼い子供の声に、綾人は歩みを止め、後ろを振り返る。
そこには、一生懸命に走ってくる大地がいた。その後ろにはその父親である瑞貴が小さく微笑みながら歩いている。
訓練の帰りのようだ。
あれから大地は、特機の特別機関で訓練を受けている。さすがに一年以上通っていると力の制御も思いのままになってきていた。が、そこは子供。興奮するといつの間にか知らず知らずに飛んでいた。
「俺にも身に覚えがあるよ。小さい頃はしょうがないよ、精神的に不安定だからね。大丈夫、大きくなるにつれて、ちゃんと制御できるようになるから。」
いつぞや、苦悩する両親に向かって、先輩保持者である綾人が励ましていた。
「今、終わったの?」
綾人は自分の所まで走り寄ってきた大地を軽々と抱きかかえてしまう。
あの日以来、大地は綾人に抱きかかえられるのが大好きになっていた。よって、父親に抱っこされる事はなくなり、密かに瑞貴は寂しい想いをしていた。
「うん!あのね!お兄ちゃん!!僕も昨日、お兄ちゃんになったんだよ!!!」
「そっか、おめでとう。妹?弟?」
「妹!!・・でもね、皺くちゃで可愛くないんだよ・・。皆、可愛いっていうけど、変だよ・・・。」
「大地〜〜〜・・・。」
追いついた瑞貴が息子の子供らしい発言にがっくり肩を落としている。
綾人は、大地の発言と瑞貴の様子に吹き出しそうになりながらも
「大地。生まれたばかりの赤ちゃんは皆そうだよ。大地だってそうだったんだよ。一日・一日、可愛くなっていくよ。」
と、自分の腕でぶすくれている大地をなだめる。
「ふ〜〜ん。」
大地からは、納得しかねるような返事が返ってきた。
大人二人は、そんな大地を見て苦笑いをしあう。今は理解するのが無理でも、日ごと妹に会っていれば、綾人の言うことが大地にもわかるだろう。
「名前は、決まってるんですか?」
「うん。『さくら』って言うんだ。」
瑞貴は、零れ落ちそうな笑みを湛えて綾人の問いに答えた。もう、可愛くて仕方がないっといった感じが綾人にもヒシヒシと伝わってくる。
(これは、さくらがお嫁に行く時は大変そうだな・・・。落ち込みが・・・。)
綾人は、数十年後の友人の姿を心配した。
「漢字は、どう書くんですか?」
「『咲く』という漢字と優良可の『良』っていう漢字。将来、綺麗に良く咲きますようにってね。実は、美咲さんにあやかった名前なんだよ。」
「美咲?」
「うん。あんな感じの可愛い女性になって欲しくてね。『咲く』っていう漢字は彼女から貰ったの。本人の承諾なしに。」
瑞貴は、軽くウィンクした。
それに対して、綾人は小さく微笑み返す。
「彼女も喜びますよ。そうだ、明後日にでも美咲と病院の方へお祝いに行きますよ。」
「ありがとう。茜も君たちに見て欲しがってたから、喜ぶよ。」
いつもの相変わらずな暖かい笑顔が綾人に向けられる。幸せ一杯の笑顔だ。
「大地。ちゃんと、妹を可愛がるんだよ。お前の手を妹が離れるまで、ちゃんと守ってやるんだよ。」
綾人が真剣な顔つきで、幼い子供に言って聞かせる。
瑞貴には、その言葉が重くのしかかって来た。何かの折に聞いて知っているのだ。綾人が小さい時に妹を自分の代わりの様に亡くしてしまった事を。
自分と同じ後悔を大地にして欲しくなくて言っているであろう事が、瑞貴には手に取るように分かった。
「うん!でも、綾人お兄ちゃんが言ったとおりに可愛くなったらね・・・。」
言葉の重大さが分からない大地は、正直に自分の本音をぶちまけた。瑞貴は顔を青くさせたが、綾人は声を出して大笑いし出した。
「外見重視の男は、嫌われるぞ!!」
綾人は、そう言ってまた笑い出した。
「え〜〜〜〜。ブスより可愛いのがいいじゃん!!」
大地の子供らしい発言に綾人は、更に笑い出し、瑞貴はあきれ果てている。
綾人に笑われるのが不服らしい大地は、頬をふぐの様に膨らませている。
それから数日後、特機本部では、妹自慢をする大地の姿があった。
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『missing piece』 END
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