御伽噺になろう 弐

小国鷲尾の伽耶姫が、大国英の若殿である高彬の元に嫁いで、ひとつきが経とうとしていた。新婚の若い夫婦はさぞや幸せに過ごしているだろうと思いきや、天高く澄み切った青空に向かって伽耶は深いため息をついていた。
彼女は、今、鷲尾から付いてきた侍女の はな にでさえ相談できない事で思い悩んでいた。

(一体、この状況はどうしたら良いのでしょうか・・・。事が事だけにおいそれと人には相談できませんね・・・。)
「はぁ〜〜〜〜〜〜・・・。」

本日、5度目のため息だ。

日に何度もため息を付くほどの伽耶の悩みというのは、未だに高彬とちゃんとした夫婦になっていない事であった。
・・・そう、この二人、まだ契っていないのだ・・・・。

婚礼を挙げたその日は、酒豪ぞろいの英の家臣たちに新郎・新婦は死ぬかと思うほど飲まされ、酔いつぶれた二人は、次の日、侍女に起こされるまで爆睡してしまい、契る所の話ではなかった。
しかし、なんとも間抜けな初夜である。

初夜はしょうがないとして、伽耶は次の日はそれなりの覚悟を決めて寝所で高彬を待っていた。しかし、彼は、何もせずに眠ってしまった。それが、この一ヶ月続いているのだ。いや、それなりの雰囲気になる日も幾度かあったことはあったが、それから先には進まなかった。

(お忙しくて、疲れてらっしゃるのよ・・・・。)

伽耶は自分にそう言い聞かせる。しかし、高彬が忙しいのは事実であった。
伽耶と婚礼を上げて、三日と空けずに城内が俄かに忙しくなっていった。高彬宛の書簡が毎日のように送られてき、また、彼も色んな所に書簡を送っていた。そして、近くの国からの使者と会ったり、英の家臣達と毎日のように何やら話し合いをしていた。
そして、十日前、彼は行き先も告げずに出かけてしまった。
伽耶が、朝、目を覚ました時には高彬の姿はすでに無く、心配して高彬付きの侍女にきいてみたが、

「殿が突然お出かけになる事はしょっちゅうですので、あまりお気になさいますな。」

と、にっこり微笑まれてしまった。
気にするなと言われても、何も告げずに一国の主が姿を消しているのに気にせずにはいられない。

「まさか、他所におなごが!!」

と、思わなくも無かったが、先ほど十日ぶりにやっと帰って来た高彬の姿を見て、それはないと確信した。ボサボサ頭で質素な格好の高彬は、全身泥と埃でボロボロ、全然大国の殿様には見えなかった。こんな格好で女の所には通わない。

(本当に、うちの殿様は何を考えておいでなのでしょうかね・・・。)

伽耶は青空から、自分の膝の上へと視線を移す。
伽耶の膝の上には、湯浴みをし、全身の汚れを落とし、小奇麗になった高彬が髪も結ばずに気持ち良さそうに眠っている。
伽耶は何度か高彬の髪を撫でると、又もやため息を付いた。



その夜、高彬が家臣達との話し合いを終え、本日二度目の湯浴みを済ませて寝所に入ると、異様に怖い顔した妻が布団の脇に座っていた。

(・・・・何か怒らすような事したっけ・・・・。)

伽耶の怖い顔に思い当たる節のない高彬は、とりあえず、妻の前に座ってみる。

「どうした、伽耶。そのような顔をして。」
「どうしたのか聞きたいのはこちらです!」
「はぁ?」
「どうして、伽耶を抱いてくれないのですか!!」
「・・・・えっと・・・・それは・・・・・。」

いつもの悪びれない態度とも、不遜な態度共とも違い、あの高彬が何といって答えていいのか分からず口ごもる。その様子に、伽耶の釣りあがっていた目が徐々に垂れ下がり、目が赤くなり、今にも泣きそうな顔になってくる。

「・・・・高彬様は、伽耶がお嫌いになられたのですか・・・・。」
「違う!その様な事はない!!」
「では、どうして・・・・・。」

伽耶の目は今にも溢れそうな程の涙が溜まっている。

(まいったな・・・。)

高彬は後頭部を数回掻いた後、

「私は、伽耶の事が嫌いになったわけでも、抱きたくないわけではない。一時でも早く私の物にしたい。」

と告げ、向かい合わせに座る伽耶の右手を自分の左手で取る。そして、右手で彼女の左頬に触れようとした時、伽耶の体が反射的に、ビクッと振るえ強張った。
それを見た高彬が昼間の伽耶の様に盛大にため息をつく。

「・・・・このように怖がられては、手が出せぬ・・・・。」
「あっ・・・・。」

伽耶は散々悩んだ事が自分に原因があった事が分かり、渓谷より深く落ち込んでしまった。鷲尾の国で古参の侍女にきちんと教育され、それなりの知識はあるとは言え、未体験の未知の世界はどんなに抑えても怖いものは怖かった。
しかし、それが無意識のうちに外に出ているとは彼女も思わなかった。
うな垂れる伽耶の右手を握ったままの左手に高彬は力を込める。

「焦る事はない。伽耶が自然にそういう気持ちになるまで、私は待つから・・。」
「はい・・・・。」

自分の不甲斐なさと、高彬の優しい心遣いに、伽耶の目から溜まった涙が溢れそうになる。それを高彬が右手の人差し指で拭い去った後、彼が言いにくそうな顔で

「それでな、伽耶・・・。」

と話しかけてきた。

「はい。なんでしょう?」
「急な事ですまないが、明日、私は大阪に立つ事になった。」
「ど・どうしてですか!?」

本当に急な申し出に伽耶の涙は引っ込んでしまい、驚きの表情になっている。高彬が真剣な顔つきになり、握ったままの伽耶の右手に更に自分の左手を添える。

「このところ、城内が騒がしかった事は知っているだろう?」
「はい。」
「山陽のほとんどを治められている宇川様に謀反の疑いがあり調べていたのだが、それが事実と分かり諸大名に出兵の御触れが出たのだ。」
「宇川様といえば、この英に負けず劣らない戦術家と聞いておりますが。」
「ああ。あの巧妙さには私も舌を巻く。今回もいつの間にやら中国地方の武将をまとめ上げておった。此度の戦は、将軍様が天下を取られたあの合戦に次ぐ大きな物になろう・・・。」
「高彬様・・・。」

伽耶が、自分の右手を包み込む高彬の両手に左手を添える。
大きな戦になれば、また、罪のない農民達が巻き込まれる。罪なき命が散っていく。何よりも、目の前の愛しい人の命も消えてしまうかもしれない。
以前、高彬が言ったように戦に絶対はない。鬼神と恐れられる彼もどうなるか分からない。信じてはいるが不安は募る。

「案ずるな。伽耶を置いては逝かぬ。」

伽耶の不安を察した高彬が安心させるように優しく微笑みかける。
伽耶も微笑み返すが、今一、笑いきれていない。何処となく引き攣っている。

「戦もそうだが、結果如何に関わらず、私は長く国を空ける。留守居を預かる家臣たちとしっかりこの国を守ってくれよ。」
「はい。お任せくださりませ。」
「国境の警備は出来る限り強化してきたが、この国の回りは安達様以上に狡猾な親父共がいるからな。彼らは自身が戦場に居ながら、他国にちょっかいだすのは朝飯前だ。油断はするなよ。」
「はい。・・・あの、ここ十日ほどお出かけでしたのは国境を見回っておいでで?」
「そうだが?」
「なぜ、一国の殿が自らお出かけになるのです?みなに任せておけば良いでしょうに・・・。」
「う〜〜ん。どうも自分の目で確かめないと気がすまなくてな。」

ははっと悪びれず軽く笑う高彬を見て、伽耶は眩暈を起こしそうだった。
自分で確かめたいと言っても、一国の主がふらふらと出かけて良いのだろうかと伽耶は悩まずには居られなかった。

(そういえば、私達が出会った時、殿は安達からの偵察の帰りだったと・・・。
侍女も「しょっちゅう居なくなる」と言っていましたし・・・。まったく・・・。)
「しょうのない人ですね・・・・。」

困ったような、あきれたような顔で伽耶は小さく微笑む。
そして、すぐになにやら思案顔になる。

「どうした?伽耶?」

急に考え込み、黙ってしまった妻を心配して、高彬が顔を覗き込む。
それが合図だったかのように、伽耶は真剣な顔で上半身を乗り出し、自分の顔を高彬の顔の直ぐ目の前まで持ってきた。
突然の事に、高彬が目を白黒させて驚いている。

いつも何処かに余裕があり、飄々としてどこか掴み所ない、それでいて自信に満ち溢れ、戦場では「鬼神」と恐れられる高彬を精神的に追い詰める事が出来るのは伽耶くらいなものだろう・・・。

「か・・・・伽耶?」
「高彬様。今宵、伽耶を抱いてください!」
「だから、それは・・・。」
「伽耶は、この国に来て日が浅く、妻としてもまだまだです。それなのに、
頼りの高彬様と離れて、この国を一人で守る事が不安で溜まりません。自信がありません。」
「伽耶・・・・。」
「ですから、伽耶に「英高彬」の妻としての自信と誇りを与えてください。」

伽耶は瞬き一つもせず、文字通り目の前の高彬の目を射るように見つめる。
その目を見た高彬は、伽耶が思いつきやその場の雰囲気で言っているのではなく、心からそう思っていることが分かった。そして、彼女が「こう!」と決めた事を中々曲げない事を彼は身を持って知っていた。

「・・ったく・・・。何故、そなたはその様に可愛らしいのだ?」

そう言って、小さく微笑んだ後、高彬の唇が静かに伽耶の唇に重ねられる。
今回、伽耶は、体を強張らせる事なく自然に受け入れた。

高彬の右腕が伽耶の背に廻される。

徐々に伽耶に覆いかぶさるように高彬が体重をかけ、布団へと導いていく。
二人は、ゆっくりと倒れ込むように布団の上に横になる。

長い口付けから伽耶を解放する。

「途中、つらくなったら言え。我慢しなくていいから。」
「大丈夫です。私は、「鬼神」の妻ですから。」
「本当に、可愛い奴だな・・・。」

小さく微笑む伽耶の唇に、また、高彬の唇が重なる。しかし、今度は、彼の舌が伽耶の口の中に入り込み、伽耶の舌を絡め取る。最初は戸惑ったが、そのまま彼の動きに任せる。高彬は、伽耶の口内を攻め上げながら、彼女の寝巻きの紐を解く。戒めがなくなった寝巻きは、左右に少し崩れ落ち、伽耶の素肌を覗かせる。

伽耶の口を解放した高彬は、その崩れた寝巻きを更に大きく裂き広げ、伽耶の背に左腕を添え、彼女の体を浮かせると、両腕から器用にそでを抜きとってしまった。そして、静かに全裸になった伽耶を横たえ、自分の腕を引き抜く。

伽耶の心臓は、緊張と初めて裸体を他人に晒す恥ずかしさで、爆発しそうなほど早く脈打っている。しかも、高彬から裸体をじっと見詰められ、伽耶は恥ずかしさで死にそうになっていた。隠したいのだが、高彬に両腕を抑えられていて、それは無理だった。

「あ・・・あまり、見ないで下さい・・・・。」
「なぜ?綺麗なのに。」
「・・・恥ずかしいです・・・・。」
「別に恥ずかしい事はないだろう?見ているのは私だけだ。」

“それが恥ずかしいのだ”と言いたかったが、彼に何を言っても無駄な事は分かっているので、何も言わず顔を背けた。それを見た高彬は小さく微笑むと、彼女の両腕から手を離し、自分の寝巻きを脱ぎにかかる。

「か〜や。」

ソッポを向いてしまった伽耶を高彬が呼ぶ。
それに答えて伽耶が振り返ったそこには、無駄な肉のない均整のとれた高彬の裸体があった。しかも、彼の体のあちらこちらに大小様々な傷があった。それは、彼が戦いに身を置いている証拠だった。
伽耶は、高彬の右の二の腕にある、真新しい傷にそっと手を伸ばし触れる。

「それは、安達に攻め入った時に受けた傷だ。安達様はさほどでは無かったが、側近の一人がえらく強くてな。そいつに付けられた。」
「痛かったでしょう・・・。」
「伽耶が受けた苦しみに比べれば、何て事はない。」

本当になんて事は無さそうに高彬は笑い、答える。きっと、本当になんて事は無いのだ。その彼の両頬に向けて、伽耶が両腕を伸ばし、小さな手で包み込んだ。

「怪我をしてもいいですから、ちゃんと、私の所に帰って来てくださいね。」
「さっきも言ったように、伽耶を置いては逝かぬよ。」

高彬は、伽耶の手から離れると彼女の口に軽く口付ける。そして、そのまま首筋へと降りていく。

「ふぁん!」

伽耶が初めて感じる感覚に甘い声を上げる。

(え!?今の私?)

自分でも初めて聞くいつもとは違う自分の声に驚いたが、それだけを考えていられるような余裕は無かった。彼の舌が、首筋から鎖骨へと落ちながら這い、同時に伽耶の背筋に稲妻のような衝撃が走り、何も考えられなくなっていく。

「ふ・・・ふ〜〜〜〜んっ・・・。」

裸体を見られるより恥ずかしい声をなんとか出さないように、口を閉じてはみるが、初めて感じる体中を駆け抜ける衝撃には耐えられず、もれてしまう。
高彬の口はどんどん下へ行き、伽耶の弾力のある乳房の先端を捉えた。舌で掬うように舐める。

「ああ!!」

その瞬間、伽耶の意識が吹き飛び、頭が真っ白になった。
そんな伽耶が分かっているのか、高彬は、口に含んだ胸の頂を強弱をつけて吸ったり、軽く噛んだりする。その度に、伽耶の口からは甘い吐息が紡がれる。

「はぁぁん!・・・ひゃ!・・・・あぁぁ・・。あん!!」

余分な力が抜けた彼女は、本能に身を任せ、寄せり来る甘美な感覚の波を漂った。もう片方の胸も彼の大きな手が包み込み、優しく揉んでいる。時折、指の腹で先端をいじりながら・・・。
今まで散々攻め上げていた胸から口を離すと、今度はもう片方の胸へと口を移す。今度はいきなり強く吸われる。

「あああああ!!!」

次々に襲ってくる感覚に伽耶は頭が可笑しくなりそうだった。
頂を舌で転がしながら、高彬の右手がそっと腹部を何回か撫でた後、伽耶の秘所に向かって伸びていく。

「い・・・いや・・・はぁぁぁ!!」

秘所に高彬の手の感触を感じた伽耶は一応の抗議をしてみるが、無駄な抵抗に終わる。彼女の秘所に当てた右の中指をゆっくりと上下に動かす。

「ああ!!はああああ!!・・・いやん・・・あああああああ!!!」

胸と秘所を同時に攻められ、先ほど以上の甘い感覚に見舞われている伽耶は、自分の体が自分の物ではないような感覚に陥ってきた。

伽耶の秘所を撫でていた中指がふいに彼女の中に入れられる。

「痛い!!!」

下半身に激痛が走り、今までの甘い痺れるような感覚が一気に飛び去り、伽耶を現実に引き戻した。あまりの痛さに腰が逃げる。

「指一本でも、これかぁ・・・。」

伽耶の胸から顔を上げた高彬が困ったような顔で呟いた。

「ゆ・・・ゆびぃ!?」
「うん、ほら。」

高彬は、左腕を彼女の腰の下に入れ、少し浮かすと、入れたままの中指で彼女の中をかき回し始めた。

「やだ!痛い!!」

痛みから逃げようと腰を引くが、高彬に腰を抱かれ固定されているので逃げられない。

「ここでちゃんと解しておかないと、後でもっと痛い目をみるぞ。」
「そんな・・・・はぁ・・・・ことを・・・言われても・・・ふっ!!」

伽耶は、かき回される痛みに耐えながらも抗議する。
そんな伽耶の耳に、水のような音が聞こえてきた。

「ふむ・・・。段々と濡れてきたな。」
「濡れ!!!!」

伽耶の顔が一気に赤くなる。教育されて女の体の変化についての知識はあったが、それが自分の身に現実として起こり、更にそれを高彬によって認識させられるとは・・・・。伽耶は恥ずかしさこの上なかった。

「な・・・なにを、おっしゃってるんですか!!」

痛みも忘れて抗議する。

「伽耶の体の変化。・・・・・そんなことより、もう一本増やすぞ。」
「え!?」

高彬は、伽耶の抗議も何処吹く風と言わんばかりにあっさり交し、人差し指を新たに彼女の中に入れてきた。
伽耶の下半身の圧迫感が少し増す。

「やっ!!」
「さっきよりは、入れやすくなったかな?」
「どうして・・・そのよう・・な・・ことを・・・・平気に・・・おっしゃられ・・・る・・・
ので・・・すか・・・。」

息も絶え絶えで、やっとのことで聞く伽耶に向かって、高彬は、

「乱れている伽耶が可愛いから。」

と、満面の笑みを向けた。
その言葉と笑みに、伽耶の顔が益々赤くなる。
でも痛みは減らない・・・・。

伽耶の中をかき回していた指が、ふいに引き抜かれ、固定されていた腰も解放される。痛みは少し残っているが、何ともいえない圧迫から解放された伽耶は、気を緩め体から力を抜いた。

「もう少しかな・・・。」

そう呟いた高彬が、伽耶の視界から消えた。そして、次の瞬間、伽耶は自分の秘所に生暖かい物を感じた。

(なに?)

それは、指と同じに彼女の秘所を上下している。

(も・・・・もしかして・・・舐められてる!?)
「や・・やだ!!」

自分の身に起きていることを認識した伽耶が、自分の股間に埋もれている高彬の頭を何とか引き離そうとするがびくともしない。それどころか、彼女は新たな感覚に腕の力が抜けてきた。

(やだ・・・。あんな所、舐められてるのに・・・。なんだか、可笑しい・・・・。)
「んっ・・・・。ふぁ・・・・。はぁぁぁ・・・。」

また、彼女の体を甘美な感覚が襲いだす。一度、目覚め、受け入れた感覚を拒否する事は出来なかった。時には荒々しく、時には優しく攻め上げられる度に伽耶は「女」の声をあげた。
それは、高彬に何とも言えない興奮を与える。

「ふぅぅぅん・・・ああ!!・・・はあ〜〜〜〜ん!・・・・あっ!!!」

伽耶の両腕は、高彬の頭から離れ、布団の上に投げ出されている。

(そろそろ、いいだろう・・・。)

高彬が股間から顔を上げると、体をほのかに赤くさせ、息も絶え絶えの伽耶がいた。その姿が又、彼を興奮させる。

(本当に、可愛いな・・。)

小さく微笑んだ後、彼は、今まで自分が攻めていた場所に、熱くいきり立った物をあてがった。伽耶が異物感を感じる。

「伽耶。いくよ?」
「え・・・あ・・・はい・・・。」

何が行くのか分からないまま、彼女は返事をした。

高彬の「それ」がゆっくりと伽耶の中に侵入し始める。

次の瞬間、物凄い激痛が彼女の体を貫いた。

「いた〜〜〜〜〜〜い!!」

指を入れられた時の何倍はあろうかと思う程の激痛から逃れようと伽耶が腰を引く。しかし、高彬が両手で腰をがっしりと掴み、引き止める。
あまりの痛みに伽耶の目に涙が浮ぶ。

「キツイな・・・。伽耶、力を抜け。」
「・・・無理・・・・・。」
「・・・・しばらく、我慢しろよ。」

そう言って、高彬は伽耶の腰を持ち上げる。そのときも、痛みが走り、伽耶の顔が歪む。

「痛い・・・・。痛いよぉ・・・・。」
「頑張ってくれ、伽耶。」

つらそうな顔でそう囁いた後、高彬は止まっていた侵入を再開する。

「くっ・・・うぅん!!」

痛みと共に圧迫感が伽耶を襲う。
体を引き千切られそうな程の痛みと、内臓の全てを押し上げているかの様な圧迫感は彼女の息を詰まらせる。

(だ・・・だめ・・・・。息が・・・・・・。)
「あと、ちょっと・・・・。」

そう呟いた高彬の額には汗が光っている。顔は更につらそうである。
彼は、最後に勢いよく伽耶を貫いた。

「いた〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!」

今まで味わっていた痛みよりも更に強い痛みに、伽耶の目から大粒の涙が次々に流れ出してきた。

「すまん、伽耶。・・・お前を気遣う・・・・余裕が・・・ない。」

そう言い終わるやいなや、高彬は荒々しく動き出した。

「い・・・いた・・・・やっ・・・・。」

初めは痛みだけしか感じていなかった伽耶だったが、高彬が彼女の中で動くたびに、段々と痛みの中に違う感覚を感じ始めてきた。

「はあ!・・・・・ふっ・・・・・くぅぅん!」

高彬の動きが早くなってくる。

「やっ・・・ああ・・はぁぁぁぁ!!・・・んっあっ!!!」
「か・・・伽耶・・・。」

更に彼の動きが早くなり、伽耶は全身を襲う甘美な感覚に凄まじい勢いで飲み込まれそうになっていた。頭にモヤがかかったかのようにはっきりしない。

「はん!・・はぁぁ・・・何か・・・・あぁ・・・変・・・・くぅ!!」
「伽耶・・・・・伽耶・・・・・。」
「やっ・・・・・ふんっ・・だめ・・・・あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「伽耶!!」

高彬は伽耶を強く抱きしめて、深く突き上げた。
その瞬間、伽耶は頭が真っ白になり、体を弓の様にそり返した。そして、それが引き金になり、高彬は伽耶の胎内に己を解き放った。


二人は、寝巻きに身を包み、抱き合い布団に入っている。
何ともいえない疲労感と共に、くすぐったい程の幸せに包まれていた。

「伽耶。体は大丈夫か?」
「まだ、痛いです・・・。」
「う〜〜ん。しょうがないな。引くまで耐えろ。」
「人事だと思ってぇ・・・・。」

伽耶の頬がふぐの様に膨れる。

「まぁまぁ・・・。その痛みも今日限りのことだから・・・。」

高彬が宥めるように伽耶の頭を数回撫でる。

「・・・・・高彬様・・・。」
「うん?」
「伽耶以外の女性を愛さないで下さいね・・・。」
「それは・・・どうかな?」

高彬のいつもの意地悪な笑みと意地悪な物言いに、折角の雰囲気が台無しになり、伽耶の堪忍袋の緒が切れる。

「高彬様!!・・・つぅ・・・・。」

怒りで声を荒げた伽耶の下腹部に痛みが走り、言いたい事も言えず、体を丸める。

「あぁ、まったく。伽耶はそのすぐ怒って怒鳴る所を直した方がいいな。」
「・・・・それを言うなら高彬様こそ、その人を食った様な態度をどうにかしてください。」
「無理だな。」
「では、私も無理です。」

二人は、しばらくじっと見詰め合ったままだったが、どちらともなく吹き出し、クスクスと笑い出した。

寝室は、二人の幸せな笑い声で満たされていった。



次の日。
高彬は、自分付きの侍女と伽耶に手伝ってもらいながら、甲冑を身に着けていた。これまで、数多の刃と血を浴び、そして、これからもそれらを浴び続ける甲冑に伽耶は、高彬を無事に帰してくれるようにと願いを込める。
この行為は、この日だけではなく、彼が戦場へと赴く時には必ず行われ、それのお陰か、高彬は、どんな不利な状況でも勝利し、彼女の元に戻ってきた。

最後の防具が着けられる。

「二人とも、ご苦労であった。」

身支度を手伝った妻と侍女に労いの言葉を掻ける。
それを二人は、正座をして座り、軽く頭を下げて受け取る。

「では、わたくしはこれで・・・。」

更に深く頭を下げた侍女は、漆塗りの長筒を持ち、部屋を後にした。

残った二人の間に小さな緊張が生まれる。

伽耶は「行かないで!!」と言いたかった。危険な戦場などへは行って欲しくなった。理性では、それが無理なのは分かっている。でも、感情が行って欲しくなくて、すすり泣く。

(よく、母はあのように強く父を送り出せていたものですね・・・。)

伽耶の脳裏に、戦場へと赴く父を凛とした態度で送り出していた母の姿が浮かび上がってきた。当たり前だった風景に、同じ立場になった今、尊敬を覚える。

「では、後の事は頼んだぞ。伽耶。」
「はい。・・・ご武運をお祈り申し上げます。」

伽耶は軽く下げていた頭を更に深く下げる。

高彬が重々しい甲冑の音をさせながら部屋を出て行く。その様子が頭を下げたままの伽耶にも手に取るように分かる。
胸が張り裂けそうだ・・・・。

その時、ふいに甲冑の音が止む。

何事かと思い、伽耶はそっと頭を上げる。
廊下に出る一歩手前で高彬が立ち止まり、伽耶をじっと見つめていた。

「伽耶!」
「は・はい!」
「帰って来たら、また、膝枕をしてくれないか?お前のそこは大変、寝心地がいい。」

高彬が、満面の笑みを浮かべる。
ただ、それだけの事が、伽耶の心を晴らし、軽くする。

「はい!喜んで!」

伽耶も高彬に負けず劣らない笑みを顔に浮かべる。
それを見た高彬は、安心したように頷くと、また、甲冑の音をさせながら戦場へと向かっていった。

甲冑の音が伽耶の耳に届かなくなった時、彼女は、自分の膝を両手で

パーーーーーン!!

と勢いよく叩くと、これまた勢いよく立ち上がり廊下へと急ぐ。

「はな!ちょっと手伝って頂戴!は〜〜な!!」

侍女のはなを呼ぶ伽耶は、いつもの伽耶だった。
しかし、心は昨日までの不安定な状態とは違い、しっかりと「英家の奥方様」だった。呼ばれた はな が見た伽耶は、どことなく雰囲気が変わって感じたが、どこがどう変わったのか感じる暇も無く、女主人に用を言いつけられていた。


これが、これから数十年と歩む事になる「高彬の妻」としての伽耶の第一歩だった。



空は、下界の人間の喧騒さを飲み込んでしまいそうな程、青く、高く、澄んでいた。

『御伽噺になろう 弐』END
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