Valentine War


1.乙女の悩み(?)

わたくし、川名 妃名子(かわな ひなこ)中学3年は、非常に悩んでいます。
受験?いえいえ、そんなものは、推薦が決まったので楽勝です。
時は2月。この時期に女の子が悩むといえば、「バレンタイン」でしょう!!

ええ、受験で大変なクラスメイトが聞いたら、殺されますよ・・・。
でも、私にとっては一大事!!
どうしよう・・・。
去年までは、なんともなかったのにな・・・。

私の悩みの種は、草薙 千鶴(くさなぎ ちづる)私立高校1年、弓道部員です。
母親同士が、昔の職場(看護婦さんなのです。)の友人で今も家族ぐるみで
お付き合いしている、幼馴染。
ちーちゃんは、一人っ子の私にとってはお兄さんみたいなものだったのに、
高校に進級(ちーちゃんは、中高大一貫校なのです。受験が一回で済むという
理由で・・・。)してからの彼は、どんどん男の人になちゃって、夏に、手の大きさ
とか比べたら、全然大きくなってて、しかもお父さんみたいに節くれだって
きてた・・・。
その時、意識しちゃったんだよね。男の人だってことに・・・。
はう・・・。

今、ちーちゃんに彼女いないけど、中学の時に何人かいたんだもん、
そのうち出きるはず。
メチャクチャかっこいいわけではないけど、そこそこイケてる方だと思うのよね。
これは、中2の時の彼氏と比べて思ったんだけど、ちーちゃんって女の子に
対しての気配りができるのよね。
言ってほしい言葉とか言ってくれるし。これは、おばさんと翼お姉ちゃんの
教育の賜物だろうな。

そんな彼を他の女がほっとく訳がないので、その前に手をうっておかねばと
思うんだけど、親同士が仲のいい幼馴染って、仮に玉砕した後が怖い・・・。
でも、ちーちゃんの性格だと何事もなかった様に接してくるんだろうな。
っていうか、彼の場合、何も無かったことになるのよ・・・。マジで・・・。

あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜、ウダウダ考えるのは性格的に似合わないので、
玉砕覚悟で、バレンタインに告白しよう!!
去年までの既製品チョコではなく、手作りで・・・。




2.告白

とうとう、やってきましたよ2月14日のバレンタインが!!
今日は、授業なんてちっとも耳に入らなかったよ・・・。
ちーちゃんとの待ち合わせは、お互いの家の中間地点の駅前広場。
時間まで、あと5分。
心臓がバクバクしてきた。口から出るなよ・・・。

私は、手にもっている、薄いオレンジ色の紙袋に、小さい造花のコサージュ
付けたいかにもプレゼントといった小さな紙袋の中身を覗く。
そこには、これまた、いかにもって感じでラッピングされたクラシックショコラ。
お菓子作りは得意だから苦労はしなかった。なんでクラシックショコラかというと
ちーちゃんは砂糖甘いのが得意ではないから。

「ひな!お待たせ!!」
この声は、ちーちゃん!!
心臓が更にバクバクしてきた。まじで口から出そう・・。
「ちーちゃん・・。」
冷静を装って、歩み寄ってくる彼に小さく手を振るけど、その手が小刻みに
震えてる・・・。
そういえば、制服姿のちーちゃんって始めてかも。っていっても、今は
ダッフルコートとマフラーで大半が隠れてて見えないけど・・・。
「待っただろう?悪かったな、寒いのに。」
「ううん、そんなに待ってないよ。時間だってピッタシだし・・・。」
ちーちゃんの家族は時間に遅れることはない。うちはたまにあって、よく草薙家
を待たせている・・・。
おじさん、外科医だから時間に厳しいのかな?
「で?用事ってなに?」
はう!!そんなにズバっと切り込まんでも・・・。私の段取りってもんを・・・。
ええい!!ここまで来て迷ってどうする!!
突撃だ〜〜〜〜〜!!!!
「これ。受け取って!!」
紙袋をちーちゃんに押し付けるように渡す。
「お・おう。」
私のあまりの勢いに、ちーちゃんがとまどっている。ごめんよ〜、私も普通に渡す
はずだったんだよ・・・。
緊張であせってしまって・・・・。
「ああ、今日、バレンタインだもんな。でも、いつも郵送してくれるじゃん。
今年はどうしたんだよ。」
そう言いながら、ちーちゃんが、紙袋を覗く。
中身を確認したちーちゃんの顔がニヤつく・・。
「あれ?今年は手作りなのか?」
ちーちゃん、目ざとすぎ!!そして、その顔やらしい・・・。
じゃなくって〜。ひな!!覚悟を決めるのよ!!
さぁ、言ってしまえ〜〜〜!!!!
「あ・あのね。私、ちーちゃんの事が好きなの!!幼馴染とかじゃなくて!
男の人として好きなの!! 良かったら、付き合ってください!!!」
思わず、おじぎしちゃったよ・・・。顔が熱い。きっと、今の私って茹でダコ以上に
赤いんだろうな・・・。
しまった!!下向いたらちーちゃんの顔が見えないじゃん!!
私っておバカ?
この沈黙、重いよ・・・。
驚いてるのかな?あきれてるのかな?困ってるのかな?
今更、顔あげられないよ。真っ赤だし・・・。
「そ〜だな・・・・。」
やっと、ちーちゃんが話してくれた。でも、このニュアンス、ダメっぽい?
「おまけのプレゼントはありがたく頂戴する。」
うん、それで?
「メインの方の答えなんだけど・・・。」
はい・・・、覚悟決まってます。さっさと宣告してやってください。
「来月のホワイトデーまでお預け。」
「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
思わず、すっとんきょうな叫び声をあげてしまった。許されるでしょう、
この状況では・・・。
ちーちゃんは、さっきにも増してニヤついて、自分の顎なんか自分の手で
撫でてるし。
「だって、日本ではバレンタインは女性から男性への告白の日で。
ホワイトデーは、そのお返しの日だろ? だ・か・ら。」
スタッカートつけて、ウィンクまでしやがったよ、この男!
「全然問題なし!!」
あるってば・・・。一ヶ月も待たされるのよ・・・。
待たされる身にもなってみろよ・・・・。
「ひな。俺さ〜、腹減ってるんだよ。おごるからモスに行こう!」
そう言うとちーちゃんは、私の手をひいて近くにあるモスバーガーへズンズン
歩いていく。

・・・・そう、告白する事に気をとられて、この男の性格をすっかり忘れてたよ。
ひな、失念・・・。
ちーちゃんは、温和な雰囲気と笑顔、物腰の柔らかさを身にまとった、
中身はとっても小悪魔さんだった・・・。





3.小悪魔大爆発

千鶴「ただいま〜。」
翼「おかえり。・・どしたん?その紙袋」
千鶴「あ?ああ。ひなからのプレゼント。」
翼「あ〜あ、世間では、バレンタインだったわね。」
千鶴「翼は、彼氏にあげないのか?」
翼「死体解剖しててそれどころじゃなかったわよ。」(法医学の研修医です。)
千鶴「でも、意外だよな。」
翼「あん!?ひなちゃんはいつもくれてるじゃない?」
千鶴「違う違う。意外と早かったなと思って。」
翼「??なにが??」
千鶴「ひなが俺におちるのが。」
翼「・・・・・・、あんた弟でよかったよ。」
千鶴「褒めてくれてありがとう。」

この日から妃名子は、一ヶ月眠れぬ夜を過ごすことになる・・・。
合掌。





『Valentine War』 END
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