決戦のWhite Day

1.決戦前日

は〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜。
やっと来たよ。明日のホワイトデー。
長かった・・・・。
この一ヶ月ろくに眠れなかったよ・・・。
ちーちゃんを好きになった事、失敗だったかな・・・。

気ぃ抜きまくりの時に、部屋の子機の内線が鳴る。
「なに?」
「千鶴くんから〜。」
ギクッ!!
能天気な母の言葉にドキドキしてしまう。
明日じゃなかったっけ!?なに?なんなの!?
うわ〜〜〜、めちゃくちゃ緊張してきた!!
「あ・ありがとう。」
うわずった声で母に礼を言って、外線ボタンを押す。
「もしもし?ちーちゃん、どうしたの?」
あくまでも冷静に。冷静に・・・。
「うん。明日さ〜、ディズニーシーに行こうよ。」
「ちょっと、まって!!明日は平日!学校があるの!!!」
「俺のとこ、今週、三者面談日以外は休みなんだ。俺、もう終わったし。」
いいね〜、私立は。じゃない!!
「ちがう!!私!!」
「は!?だって、授業なんてろくなのやってないだろう?あとは、卒業式の練習
くらいだろ?」
それはそうですが・・・・。
さぼっちゃ〜いかんでしょう。
それに、うちの親はどうすんのよ・・・。
「ひなン所の両親には了解済みだから。心配ないよ。」
まるで、人の心を見透かしたようなお言葉。
しかし、うちの両親ってば、率先して子供をさぼらしてどうすんのよ・・・。
まぁ、うちの両親のちーちゃんへの信頼は絶対だもんね。
うちの父なんて、「千鶴くんが相手なら、ひなは、のし付けて嫁に出す!」
っていうのが私達が小さい頃からの口癖だし・・・。
「ひなは、ホワイトデーのお返し欲しくないの?」
ムカッ!!!!
いま、ちーちゃんが勝ち誇ったような顔が浮かんだわよ!!
「行くわよ!行きますとも!!行けばいいんでしょう!!!」
「じゃあ、決まり。明日、7時に迎えに行くから、寝坊すんなよ。」
「7時!?なんでそんなに早いの?」
「翼が車で送ってくれる。っていうか、翼も哲也さんとディズニーシーでデート
なんだ。いわゆる便乗?」
ちゃっかりしてらっしゃる・・・。きっと、私らのチケット代は、哲也さんが
出すんだろうな。
いいかっ。彼は社会人だし、実家は個人経営の病院だし・・・。
「あっそう・・・。じゃあ、7時にね。」
「おう。可愛い格好で来いよ。おやすみ。」
「おやすみなさい。」

電話を切る。
ちーちゃんの「可愛い格好で来いよ。」が頭の中でリフレインしてる。
む〜〜、ツボ得すぎだよ。
そして、それに乗ってしまう私。女の性か?
クローゼットの中を引っ掻き回して、明日の準備をはじめる。
どうも今日も眠れそうにない・・・・。




2.決戦の地は、ディズニーシー!!〜その1〜

AM6:30。
眠い・・・。服選ぶのに時間掛かって、やっぱり睡眠時間削られた・・・。
ただでさえ、ここの所ちゃんと寝てないのに・・・。
服は、アンゴラの白のアンザンブル・赤い膝丈のタイトスカート・タイトスカートより
ちょっと長めの白いコート・ロングブーツにした。あと、黒リュック。
たぶん、可愛いと思う。もう、頭が飽和状態で考えらんない・・・。

「ひな!ミルク!ミルクこぼすわよ!!」
母の声に我に返る。やばい・やばい。眠気で手に持ってたマグカップ
落としそうだったよ。
換えの服なんて思い浮かばないから、こぼさないようにしないと。
「危ないな〜〜〜。」
父が新聞を読みながら、笑ってる。
笑ってる場合じゃないって。
眠いのよ・・・。折角のディズニーシーなのに・・。じゃあない。
宣告されるのよ。お父様・お母様が思っている様な楽し気なイベントじゃないのよ
・・・。

朝ごはん代わりのホットミルクの残りを胃に一気に流しこんだ頃、家の
インターフォンが鳴った。
時計を見ると、ぴったり7時。
たぶん、ちーちゃんのお迎えだ。
「おはよう、千鶴君。ちょっと、待っててね。」
やっぱり、ちーちゃんだ。すごいよな、草薙家・・・・。
そんな事を思いながら、ダイニングテーブルを立ち上がり、モソモソと玄関へ母と
一緒に向かう。
「楽しんで来いよ〜〜〜。」
背中の方で能天気な父の声がする。
だからね、楽しめないのよ。宣告を受けに行くんだからね・・・。

玄関の外に出ると、この一般住宅街に不似合いな、濃紺のおベンツ様が
止まっていた。
あ〜〜〜、早朝で良かったよ。あんまり近所に見られたくないもの・・・。
きっと、母が近所のおばさんの噂のネタになる。
なっても、うちの母は軽く交すツワモノだけどさ・・・。修羅場をくぐった元看護婦は
怖いよね。
車の左ハンドルの運転席には、「あんたそれじゃあ、若頭か何かだよ!!」って
ツッコミを入れたくなる格好(黒いスーツにサングラス姿)の哲也さんと、助手席
には、相変わらずお綺麗な翼お姉ちゃんが乗っていた。
「あら?哲也さんと翼ちゃんも一緒なのね。」
「ええ。便乗させてもらいました。」
相変わらずのさわやかな微笑みで、ちーちゃんが母に答える。
あんた、なんで、こんな朝早くからそんなにさわやかさんなの?朝だから、
さわやかなのか?
こっちとら、眠いし、これからの事を考えると憂鬱だって〜のに・・・。
「はい。ひな。どーぞ。」
そう言って、ちーちゃんは、後部座席のドアを開けて、天井を頭が当たらない
ように手を添えてるし・・・。
ちーちゃん、秘書になれるよ。
っていうか、ツボ押さえ過ぎ・・・・。
私が乗り込んだのを見届けて
「じゃあ、ひな、お借りしていきますね。」
と母に言ってちーちゃんが乗り込む。
「はい、どうぞ。どうぞ。楽しんでらっしゃいね〜〜。」
母が見送りながら、手を振っている。
だからね、父にも心の声で言ったけど、楽しめないっちゅ〜の・・・。

それにしても、おベンツ様の優雅な揺れと心地いいクッションで、眠気が
増す・・・。
「ひな?眠い?シーまで時間が掛かるから寝てればいい。」
ちーちゃんが、そう言って、私の頭を自分の肩に置く。
そして、自分のコートを私の膝に、私のコートを上半身にかけてくれた。
「大丈夫。ちゃんと起こすから。」
その優しい声に、私は、意識を手放し熟睡した。





3.決戦の地は、ディズニーシー!!〜その2〜

「ひ〜な。着いたよ。」
「ほえ!?」
ちーちゃんの声で目を開け、辺りを見渡すと、シーの立体駐車場だった。
あ〜〜〜、良く寝た。このところの睡眠不足が嘘のように清清しい。
私達4人は連れ立って、シーの入場口へ歩く。哲也さんと翼お姉ちゃんは腕を
くんで。
私とちーちゃんはいつものように手を繋いで。
いつもの事なのに、今日は心臓がバクバクするよ〜〜〜〜〜。

「はい。ひなちゃんの分のパスポート」
哲也さんからパスポートを貰う。
事前に買ってあったらしい。ってことは、今日の事は前々からの計画?
それならもっと早く言ってよ・・・。でも、この事で抗議してもちーちゃん相手には
無駄なんだろうな。
「じゃあ、夜の9時30分に車にね。ばいば〜〜〜い。」
大人のカップルは、そう言って人ごみに消えていった。
残された私は、一応、抗議してみる。
「ねぇ、ちーちゃん。パスポートが事前に買ってあるって事は、前から計画されて
たってことよね?」
「うん。それがどうかした?」
「前日じゃなくて、もう少し前に誘ってくれないかな?慌てて準備しなくて済むん
だから・・・。」
もっと、ちゃんと寝れただろうし・・・。
「そんなのつまんないじゃん。急に言われて、ドキドキワクワクしながら準備する。
楽しかっただろ?」
「・・・・ま、まあね・・・。」
やっぱり無駄だった・・・。
「それより、ひなは朝飯食ってないだろう?軽く食事しよう。」
ちーちゃんは、もらった地図も見ずにパーク内を私の手を引いて歩く。
そして、ハーバーが目の前にみえる、朝食を提供しているレストランに連れて
こられた。
なぜ知っている!?
それは兎も角、そこで、私はブレックファストセットを、ちーちゃんはコーヒーを
頼む。
「ひな。そのリンゴ頂戴。」
「うん、いいよ。」
私は、うさぎさん剥きされたリンゴをフォークでさし、ちーちゃんの口へ持っていく。
ちーちゃんはリンゴを口で受け取る。
いわゆる「はい、あ〜〜〜〜〜〜〜ん。・・・パクッ。」である。
これも手を繋ぐのと一緒で、いつもの事なのに、今日は非常に照れる。
あっ、そうだ。照れてる場合じゃない。
さっきの疑問を聞かないと・・・。
「ねぇ、ちーちゃん。」
「はい?」
「ちーちゃん、ここ、はじめてじゃないね。」
「ああ。すみれさん(千鶴の母)と一緒に来た。」
「おばさんと!?」
おいおい、その年で母親と来るのかよ・・・。意外とマザコン?
「おい。マザコンとか思っただろう・・・。」
ちーちゃんの目が怖い。
一応、首を横に振る。
「すみれさん、本当は雅史さん(千鶴の父)と来る予定だったんだけど、急なオペ
が入ってドタキャンされてさ。 無理矢理、すみれさんに連れてこられたの。」
ちーちゃんのおうちは、みんな、名前で呼び合っている。
「ふ〜〜〜ん。」
「あの時は、「何が悲しくて母親と・・・」とか思ったけど、おかげで、今日はひなを
余裕をもってリードできるから良かった事になるかな。」
そう言ってちーちゃんは、例のほんわかな微笑みを私にむける。
ああ・・・。弱いんだよ、その笑顔。

私達は、シーを隈なく回った。平日という事もあって人が少なかったし、
ファストパスを有効に使った事もあって、人気のアトラクションもそんなに長く
待たずに乗れた。
悔しいのは、一番乗りたかった「センター・オブ・ジ・アース」にちーちゃんが
乗りたがらなかった事。
ちーちゃんはジェットコースター系が苦手だった・・・。中型バイクの免許もってる
くせに・・・。
それを言うと「勝手にスピードが出るのと、自分で出すのはちがうの!」と、
こづかれた。
まあ、「インディジョーンズ」には行けたからいいけどね。
本来の目的を忘れて遊びまくってたら、いつの間にか、辺りが暗くなり始めて
いた。
春先とはいえ、まだまだ、あっという間に暗くなるよね。なんだか寂しいな・・・。
「ひな。灯台の所で休もうか?」
「うん。」
ちーちゃんは、私の手を握って早くも恋人達のメッカになりつつある、小さな灯台
へと私を連れていく。
そういえば、ちーちゃんは今日一日中、私の歩調に合わせてくれてたな〜。
歩くのが早い人なのに・・・。
しかも、間髪いれずに「ひな。きつくない?」とか「ひな。疲れた?」とか聞いて
くれるし・・・。
あ〜〜〜、ちーちゃん、やっぱりいい男だよ!小悪魔な性格どうにかすれば、
文句ないっすよ・・・。
それに比べて元カレは・・・・。
いかん・いかん、そんな場合じゃないのよ!
ぼ〜〜と考え事をしているうちに、目的地の灯台下に来ていた。
たぶん、ここで、宣告されるのね・・・・。

意外にも、先客は1組のカップルしかいなかった。彼らは、二人の世界に
はまっていて私達には気づいてないようだ。
二人掛けのベンチに座る。
あ〜〜〜〜〜〜、落ち着かない!!逃げ出したい!!
本来なら、甘い雰囲気になる場所なんだろうけど、私にとっては、
処刑場かも・・・。はうはう・・・。
「ひな。目ぇ閉じて。」
「うん。」
なんですか?
ああ、処刑される人って目隠しされるよね・・・。などと分け分からん事を
思っていたら、ふいに私の左手が取られて、薬指に何かがはめられる感じが
した。
「いいよ。目、開けても。」
そう言われて、目を開け、左手を見てみる。
こ・これは!!
ペリドットのシルバーリング!!私の誕生石だ・・・。
私は、驚いた顔でちーちゃんを見る。
「ペリドットってひなの誕生石だよね?」
「うん、そう。」
「うれしい?」
「すっごく!!」
手を上にかざしてマジマジと見てしまう。
またもや本来の目的を忘れて・・・。
「ひな。耳貸して。」
耳?ですか?
私は、左手を下ろし、右耳にかかっている髪の毛を耳にかけ、ちーちゃんの方に
出す。
すると、ちーちゃんが耳の所に自分の口を近づけてきた。
私の顔の真横に、ちーちゃんの顔が!!!
は・恥ずかしいよ〜〜〜〜。
「一回しか言わないからね。良く聞いておくんだよ。」
ちーちゃんの優しい声。この声で、何と私に宣告するのだろう。
私は、小さく頷き、覚悟を決める。

「俺も、妃名子の事が一人の女性として好きです。良かったら付き合って
ください。」

緊張の糸が「ぶちっ」という音と共に切れた。
うれしいのに・・・、待ってた言葉なのに・・・、それを聞いた途端に涙が出てきた。
止めようとしてるのに止まんないよ〜〜〜〜。
「ったく、ひなは泣き虫だな〜。」
ちーちゃんが、そっと私を抱きしめてくれる。それが、うれしくて又涙が溢れて
くる。
もういいや。出てくるだけ出て来い!!
私は、気の済むまでちーちゃんの胸で泣いた。
一ヶ月待たされたんだ。これくらい許されるでしょう。


散々泣いた私は、今、ちーちゃんにハンカチで顔を拭いてもらっている。
これでは、親子じゃないか・・・。
「こんなに感激するとは思わなかったな〜。」
ちーちゃんがクスクス笑っている。
そりゃ、あんた、一ヶ月返事を待たされたのよ!
OKだろうがNGだろうが感極まって泣くでしょう。
私が泣き虫じゃなくて、ちーちゃんが意地悪なのよ!!
うん!?いじわる?・・・まさか・・・・。
視線を俯き加減の下のほうから、目の前のちーちゃんに移す。
「これで、ひなは、一生バレンタインとホワイトデーは忘れないね。」
やわらかに笑ってるよ・・・。
他人が見たら、仏の微笑みかもしれないけれど、私が見れば小悪魔の微笑み
だよ。
「こんだけ、感動的だったら、その辺のありきたりの告白じゃあ、見向きもしない
よな。」
「ちーちゃん、もしかして・・・・。」
「そう、今回の告白劇は”男よけ”。」
はう〜〜〜〜。
ただで済むとは思ってなかったさ〜〜〜!
これかい・・・。
でも・・・。
「大丈夫だよ。私は、もう、ちーちゃんしか見えないもん・・・。そういう、
ちーちゃんこそ・・・。」
「それこそいらん心配だ。俺の世界は”ひな”を中心に廻ってるから。」
ぼっ!!という発火音とともに、私の顔が赤くなるのがわかった。
どうして、この人はこういう事をサラッというかな・・。うれしいけど・・・。
ああ、また、その人を惑わすような微笑を・・・・。

「ひな。目ェ閉じて。」
また?今度はなに?とか思いつつ、素直に従ってしまう私。
私が目を閉じた瞬間、私の唇にちーちゃんの唇がふれた・・・・・。

やっぱり、千鶴にはかなわない・・・。





『決戦のWhiteDay』 END
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