光 源氏

卒業式も無事終わり、後は高校の入学式を待つばかりの3月末のまったりとした
春休み。
私は、ちーちゃんとの初デートに「しながわ水族館」に連れてきて貰った。
お互いの家からそんなに遠くも無いのに、二人ともはじめてなんだよね。
「案外、そんなもんだろう。遠いと希少価値があがるから、無理してでも行くけど、
いつでも行けるとなるとな。」
ちーちゃん、そんな身も蓋もない事を笑顔で言わなくても・・・。
まっ、そんな事より、ペンギン!イルカ!ゴマちゃん!ラッコ!
早く見た〜〜〜〜〜〜〜い!!!!お魚みたい〜〜〜〜い!!!!
「ちーちゃん、早く!早く!!」
「ひな。魚達は逃げないから・・・・。」
「早く見たいの!!!」
「はいはい・・・。」
私は、ちーちゃんの手をグイグイひっぱって、水族館に向かう。
待っててね、お魚さ〜〜〜〜ん!!!!


(数時間後)


いや〜〜〜〜、広かったよ、「しながわ水族館」!
イルカ・アシカショーはすごかったな〜。
ペンギンは可愛かったし〜〜〜。
サメは怖かったけど・・・・。
やっぱり、圧巻は「トンネル水槽」だよね!!180度ガラス張りのトンネル
なんだもん!!
私達の上をお魚さん達が泳いでるの〜〜〜〜。
すごかった〜〜〜〜〜〜。
「楽しかった?」
テーブルを挟んだ向かいに座るちーちゃんが、カフェオレ片手に聞いてきた。
「うん。また、来ようね。」
「そうだな。ひなの喜ぶ顔が見れるなら、何度でも来ましょう。」
クラッ!!
ちーちゃん、そのセリフと笑顔は反則だわ・・・。
悩殺されるって・・・。
「ひ〜な。そのワッフル頂戴。」
「いいよ。はい。」
ディズニーシーの朝食の時と一緒で、ワッフルをフォークに刺して、ちーちゃんに
差し出す。
ちーちゃんは、口で受け取る。
ちーちゃん、かわいい!!
言ったら「男の人に、”かわいい”って言わないの!」って怒られそうだけど、
かわいいものはかわいい!!
「ねぇ、私も、ちーちゃんのチーズケーキ欲しい。」
「いいよ。」
今度は、ちーちゃんがチーズケーキをフォークに刺して、私に差し出す。
私は、口で受け取る。
「やん、おいしい。」
口の中にほわって広がるケーキが、本当においしくて、顔が自然にほころんで
しまう。
あれ!?ちーちゃん目なんか細めて、何だか嬉しそう。
何かあった?
まっいいか。ちーちゃんが嬉しいと私も嬉しい。
しばらく、「ほわほわ・ふにゃふにゃ」状態だったんだけど、私、ふっと思いだした。
一つの疑問。

「ねぇ、ちーちゃんっていつから私の事好きだったの?」
「ひな。そういう事は、『自分はこれこれこうだけど、あなたはどうなんですか?』
って聞くもんだ。ということで、ひなはいつから俺の事意識し始めたの?」
うん?そうなのかな?
なんだかいいように丸め込まれているような・・・・。
「うんとね、去年の夏。ほら、ちーちゃんと手の大きさ比べたじゃない。」
「ああ・・。」
「その時にね、『うわ!男の人だ!!』って思ってから。急にね・・・。」
あ〜、恥ずかしい・・・。
こんな事、本人目の前にして言うものじゃないね・・・。
でも、ちーちゃんには言わせるけど。でも、この男に恥かしいという神経があるか
どうかは知らないけれど・・・。
「で、ちーちゃんは?ちーちゃんは、いつからなの?」
「俺は、ガキの時から。」
やっぱり、恥ずかしそうな気配さえないよ。さらっと言ってくれちゃってさっ。
あれ?今、『ガキの時から』って言いましたよね?
高校の始め辺りまで、色んな方達と、付き合ってたよね?
その人達は何?
「ひなって、わっかりやす〜〜〜。今、俺が付き合ってた女の事考えてた
だろう?」
あっ、また、そんな意地悪そうな笑顔を・・。それにも弱いんだってば・・・。
「なんで、わかるのよ・・・。」
「顔に書いてある。」
思わず自分の顔を手でゴシゴシ拭いてしまった。そんな事は、ないのに、
何だかちーちゃんに言われると本当に書いてあるみたいで。
あっ、ちーちゃん、大笑いしてるよ・・・。
「本当に書いてるわけね〜だろ!!」
悪かったね!!
ちーちゃんのせいでしょう!ちーちゃんの!!
「で!今までの彼女は、遊びだったの!!」
ぎっとちーちゃんを睨む。
ちーちゃんは、平然としている。
「遊びだなんて、彼女たちに失礼だな〜。練習台だよ。」
かはっ!!
ちーちゃん、それもどうかと思うけど・・・。また、笑顔だし・・・。
フラフラする頭をなんとか抑えて、話の続きをする。
「一体、何の練習よ・・・・。」
「ま〜色々とね。」
「色々って?」
「ほら、俺ってさ、すみれさんや翼にさ、女の子に対する気配りなんかさ、
メチャクチャ小さい時から仕込まれてるじゃん。」
あ〜そうだね。
そのお陰で、いい思いさせてもらってるよ。
「で?」
「でもさ、身に付いても実際コツがつかめなくってさ。」
「それで、付き合ってたの〜?」
「そう。でも、それだけじゃないよ。キスの練習もね。」
「おい・・・。」
何故、そんなに悪びれないかな〜〜、君は・・・。
「なんで、不機嫌なのかなぁ?ひなの為だったのに。」
「はぁ?わたしぃ〜〜〜〜〜???」
「そうだよ。ひなをちゃんとリードしてあげて、ひなに気持ちいいキスをして
あげたかったから。」
また、そんな満面の笑みで・・・。笑えば許されると・・・許されるよ、ちーちゃんなら
・・・。
「あのさ・・、いつかは私と付き合う事前提で他の人と付き合ってたの?」
「その通り。」
ああああああ。ごめんなさいよ〜〜。ちーちゃんの元彼女達・・・。
私が悪いわけではないのだけれど、目の前の男は罪悪感もなく、反省する素振り
さえ見せないので、替わりに謝るよ・・・。でも、恨むんならちーちゃんだけにしね。
でも、倍になってあなた達に返ってくると思うから止めといた方がいいかな・・・。
「でも、私がちーちゃんじゃない人と付き合うとは思わなかったの?実際、
中2の時、彼氏出来たって言った時、何も言わなかったじゃ無い。」
「ひなはずっと俺と一緒だったんだよ?その辺の男と付き合ったって、俺と比べて
すぐに別れることわかってたもん。中2の彼だって、すぐ別れたじゃないか。」
ええ、そうですとも!!いつもちーちゃんにされてた事を彼氏がやってくれない
から、気の利かない奴だと思って嫌になって、別れたさ!!ちーちゃんが基準
だったわよ!!!
いつの間にかちーちゃんに毒されていたのね、私。
なんかこれって・・・
「光 源氏みたい・・・。」
心の声がポロッと出てしまった。
急にちーちゃんの顔が強張る。普段、温厚な顔だから、メッチャ怖い・・・。
「あ〜〜〜〜ん!?光源氏だぁ〜〜〜!?俺をあんな、色ボケ世間知らずの
バカ貴族野郎といっしょにするな!!!!」
千年以上に渡る名作の主人公が、ちーちゃんに掛かると立つ瀬のない人に
なってしまう・・・。
紫式部さんごめんなさい。
でも、やってる事似てると思うけど・・・。似てるから嫌うのかな?
「それに!」
あっ、まだ怒ってる。そんなに嫌い?
「藤壺の宮や紫の上や葵の上より、ひなの方が絶対かわいい!!」
脱力・・・・。
もう、ちーちゃんの好きにして・・・・。


「あ、そうそう。さっき、言い忘れてたんだけどさ。」
自宅への帰りに、今度はちーちゃんが、思い出したかのように話し出した。
「俺さ、ひなと付き合うのもっと後だと思ってたんだよ。」
「はぁ〜〜。」
どこからその自信はくるのかな?ちーちゃんは・・・。
「予定では、キスだけじゃなく、あっちの方も上達してるはずだったんだよ。」
「いっ!?」
「でも、練習する前にひなと付き合い出したから、あっちの方は二人で
頑張ろうな!」
「な・な・な・何を言っているの!ちーちゃん!!」
「何かまずいこと言ったか?」
言った!言ったともよ!!
この往来で、きわどい事を笑顔でサラッと!!!
もう、何食わぬ顔で、私の手を握って歩いてるし・・・。
ちーちゃんに普通の神経を求めてはいけないのだろうけど、求めてしまうよ、
私は。
しかし、ちーちゃんは残念そうだったけど、私は早めに付き合い出して良かったと
思うよ。
被害(?)女性がこれ以上増えなくて済むもの・・・。

ちーちゃん、光源氏より、たち悪すぎ・・・。





『光 源氏』 END
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