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星に願い・・・を・・・? |
七月七日。
七夕。
「さ〜さ〜の〜は〜 さ〜らさら〜〜っと。」
いま、私は、ちーちゃんのお家のお庭で七夕飾りをしています。
歌まで口ずさんじゃって、とってもウキウキです!
色とりどりの折り紙で作った飾りを一つ一つ笹の葉に着けていると
なんでかワクワクしてきます!
綺麗に飾るからね〜〜、笹さん!!
・・・おっと、なぜ、ちーちゃんのお家で七夕飾りをしているかというと、
お母さんが知り合いから笹をわけて貰ったのはいいのですが、一般個人住宅の
申し訳なさ程度の庭しかない川名家では飾るスペースがないので、個人住宅に
しては大層な庭がある草薙家で飾ることになったのです。
で、飾りつけは私。
ちーちゃんは・・・・・テラスで優雅に読書中です・・・・・。
足なんか組んで、美味しそうにコーヒー飲んでるし・・・。
手伝ってくれるように頼んだのに
「それを手伝う事によって、俺にもたらされるメリットはあるのか?」
と、遠まわしに断られてしまいました・・・。ぐすん・・・。
折角、二人で楽しく飾りつけできると思ってたのに・・・。
友達の誘いを断って、ちょっとでも早く会えるように急いできたのにな・・・。
男の人ってこういう事は楽しくないのかなぁ。はぁ〜〜・・・。
いかん、いかん。
こんな良き日に落ち込んでいてはいけません!
気を取り直してっと。
「お〜ほしさ〜〜ま き〜らきら〜〜〜」
「ひな、音程はずした。」
かぁぁぁ!!!!
手伝いもしないで、そんな所だけ突っ込むとは!!なんて人でしょう!!
しかも、ほんのちょっとじゃない!!
自分でも「はずした」と思ったわよ!でも、こういうのって気が付いても気が
付かない振りをするものでしょう!!!
と、思っても口には出さない。っていうか、出せない。
どうせ、そのあと、二倍・三倍になってかえって来るのがオチなんだもん・・・。
「お耳触りで大変申し訳ございません。」
「やけにトゲがあるなぁ。なんか、悪いこと言ったか?」
笑ってる・・・笑ってるよ!
爽やかに笑ってるよ!!
あれは、分かってて言ってるんだ!
ちくしょ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!
「ひな。そんな目で睨むと、可愛い顔が台無しだよ。」
ほんわか、ふわふわと微笑んでいらっしゃるよ・・・・。
くっ・・・。騙されてはいけないと分かっているのに・・・騙されてしまおう・・・。
ちーちゃんに「可愛い」とか言われて微笑まれて、平常で居られる人はいないと
思う。
私は、もう無理です。
顔、だらしないくらい笑ってます。
「うん、うん。ひなは笑ってると更に可愛い。」
体温、1度ほど上昇。
どうして、そんな嬉しい事をサラッと言えてしまうんでしょうね。
乙女のツボ得すぎだから、ちーちゃん・・・。
さっきまで、からかわれていた事なんてなかった様に上機嫌な自分。
ゲンキンだなぁ。
「ほう。綺麗になったなぁ。」
何時の間にか私の隣に来ていたちーちゃんが、ほんのちょっとだけ竹を見上げて
いた。
いいよなぁ、背が高いとさ。
ミニマムな私は自分よりかなり大きな竹に飾り付けるのは至難の業だった。
ええ。目一杯背伸びしてましたとも!
脚立?それは危ないと隣のお人に言われて使わせてもらえてません!
だから、手伝ってほしかったのに!!
「まあね。私一人が一生懸命、背伸びまでして頑張りましたからね!!」
「しょうがないだろ?俺が帰ってきたときには、柱に括りつけてあったんだからさ。」
「・・・論点はそこじゃないと思う・・・。」
なぜ、他の事は異様に気が付くくせに、こんな所はボケかますんだろうか。
恨めしげに隣を見上げると、顎に手を置いてニヤニヤ笑っているちーちゃんが
いた。
・・・・まさか・・・・。
「爪先立って、一掃懸命背伸びしているひなは、抱きしめたいくらい
可愛かったよ。」
脱力・・・・。
「手伝わない事に、俺のメリットはあったわけよ。」
もう、そんなに爽やかに微笑んで断言しないでよ・・・。
怒る気力も失せてしまいます・・・。
傍から見ると、勝者と敗者なんだろうなぁ。もちろん勝者はちーちゃんで、
敗者は私。
・・・いつもだけどね・・・。
「あとはその短冊だけ?」
「う・・うん・・・。」
「付けてやるよ。上の方がいいんだろう?」
「うん・・・・。」
気落ちしていた私は、言われるがままに手にしていた願い事を書いた短冊を
ちーちゃんに手渡そうとしたけど・・・
「だ・だめーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
自分の家なら完璧にご近所迷惑な騒音を出して、短冊を背に回して隠した。
ちーちゃんは、突然の事にびっくりした顔をしてる。
驚かして、ごめん!!
でも、これは駄目!絶対に駄目!!
願い事だよ?
とくにちーちゃんには見られてはまずい!!
あ・・・・びっくりしてたちーちゃんの顔が怪しげに、そして、楽しそうに笑ってる。
いわゆる、いじめっ子な顔・・・・。
「ひなは何をお願いしようとしてるのかな?」
「べ・・・別に・・・・。」
「じゃあ、見せてよ。」
「だ・・駄目よ!見られたら、叶わないもの。」
「巷の七夕飾りは、色んな人に見られているけど?それに、ここ、俺んち
なんだけど?ひなが帰った後にでも見れるよ?」
しまった・・・・。そうだった・・・・。
結局、見られる運命?
だからって、お願いしないというわけにはいかないし、でも、見られるのは
恥ずかしい。
「う〜〜〜〜〜〜・・・・。」
「はいはい。女の子が眉間に皺なんて作らないの。」
クスクス笑いながら、ちーちゃんが人差し指で私の眉間をちょいと軽くひっぱり
あげた。
ちょっと情けない顔になってないかい?
「見せてよ。」
「やだ。」
「どうして?」
「恥ずかしいもん。」
「何を願ったんだよ。」
「秘密。」
「ひ〜〜な。」
「・・・・・・・・。」
ちーちゃんは男なんだから、無理矢理にでも私から短冊を奪いとる事だって
できるのに、そんな事はしないで、私の頬を手で優しく撫でながらニコニコと
微笑んで優しく催促してくる。
卑怯だよね・・・。
そんなに優しくされると強く拒否できないじゃない。
っていうか、拒否している私が心が狭い人のようだ・・・。
これが、ちーちゃんの作戦だと分かっていても逆らえない私・・・。
すっかり、ちーちゃんに毒されている模様・・・。
「笑わないでよ・・・。」
「笑わない。」
「耳かして・・・。」
「はい。」
ちーちゃんはちょっとかがんで、私はちょっと背伸びして、耳と口を近づける。
「あのね・・・『ちーちゃんとずっと一緒にいられますように』って・・・。」
きゃーーーーーーーーー!!!!
言っちゃった!言っちゃった!!
ほ・本人に言ってしまった!!!!
熱い!体中が熱い!!
湯気が出てるかも・・・。
う〜〜〜〜。ちーちゃんの顔が見れない・・・。
・・・・なんだか、告白した時みたい・・・・。
「ひ〜な。」
呼ばれて、顔を上げると、物凄く嬉しそうなちーちゃんがいた。
と思ったら、軽くキスされた。
うわ!うわ!うわ〜〜〜〜〜!!!!!
「嬉しいよ。でも、そういう事は、俺に言わないとね。」
「言えないって、普通・・・。」
「まぁ、願わなくても大丈夫だけどね。俺は、ひなを手放す気なんてさらさら
無いから。」
「ちーちゃん・・・。」
「ひなが離れたいって言っても駄目だよ?」
優しく抱きしめられた。
「言わないもん。そんな事・・・。」
ちーちゃんの胸の中で、ボソッと呟く。
「ほら。大丈夫じゃないか。」
私の背に手は回したままでちーちゃんは私の顔を覗き込む。
憎たらしいくらい自信有りげに。
「他の願い事でも書く?」
「・・・・いい。他にないもん。それより、ちーちゃんは?ちーちゃんは
お願いないの?」
「無い。それに、そんな無粋なマネができるか。」
「はい!?」
無粋って???
「七夕って、織姫と彦星が一年に一度会う日だろ?恋人同士の折角の逢瀬を
邪魔してはいかんだろ。」
「はぁ・・・。」
「一年に一度だぞ?やっとこさ会えたのに、人の願いなんて叶えてる場合
じゃないだろう。俺が彦星なら無視するね。っていうか、一年に一度しか会えなく
なる様なそんな馬鹿なマネはしない!週に一度だってつらいのに・・・」
はぁ〜〜・・・なんてため息ついてるよ・・・。
ねぇ、ねぇ。その一年に一度しか会えないお二人に願い事をしようとしていた
私の立場は?
物凄いお邪魔虫になった気分なんですけど・・・。
「しっかし、いつから七夕って願い事をする様になったんだかねぇ。
お祝いしてやってもいいだろうに。やだね〜、無粋すぎ!」
「ちーちゃん・・・・。」
心の中でさめざめと泣いてしまいます・・・。
折角の七夕が、一気に現実世界に染まってしまった気がする・・・。
どうして、ちーちゃんはこうなんだろう・・・。
乙女のツボは心得てるのに、なんて現実的な物の考えなんだろう・・・。
表面の物腰柔らかな彼しか知らない人は、このギャップに絶対付いて行けない
と思う。
幼馴染の私でさえ、時々嫌になるもの・・・。
「というわけで・・・。」
「うん?・・・きゃあ!!」
何の前触れもない浮遊感の後、私の顔の目の前にちーちゃんの顔があった。
え〜〜〜っと・・・・まさか・・・・。
恐る恐る下を覗くと、地面がいつもより遠くにあるし、私の足が地に付いて
いない。
で、私の足は・・・・・ちーちゃんの腕に乗っかっている。
これは、もしかして、俗に言う
「お姫様抱っこ。嬉しい?」
「人の心を読むなーーーーーーーー!!!!」
「俺は超能力者じゃないぞ。ひなの顔に書いてあるだけだってば。」
「書いてない!!」
しながわ水族館の二の舞にはなりませんよ!!
「まぁまぁ。・・・ひなは七夕に何で天気の悪い日が多いか知ってる?」
「梅雨だから?」
「お前は、なんでそんなに現実的なの?」
君に言われたくない!
そして、そんなに呆れるな!!
「見られたくないからだよ。誰にも邪魔されたくないんだよ。二人の時間を・・・。」
「そっか・・・。」
納得。
物凄く納得。
誰だって、二人の甘甘な時間を邪魔されたくないもんね。
ごめんなさいね。それなのにお願い事しようとして・・・。
私は邪魔しませんので、充分楽しんでください。
一年分、しっかりと!!
「では、俺たちも織姫と彦星に見習って、誰にも邪魔されずにイチャつこうかね。」
「はい?」
訝しげな私を無視して、ちーちゃんは抱き上げた私をそのままに歩き出した。
庭から家の中へと・・・。
「ちょ・・ちょっと!ちーちゃん!!」
「なに?」
「降ろして!自分で歩くから!!」
「何を今更恥ずかしがることがあるんだか・・・。誰もいないのに・・。」
「森山さんが居るじゃない!」
森山さん・・・草薙家のお手伝いさんです。
現役婦長さんのおばさん一人では、この家は廻らないのです。
・・・・何気に凄いよね。草薙家って・・・。
じゃなくって!
「大丈夫、大丈夫!見ても見なかった振りしてくれるから。」
「そうじゃない・・・・。」
私が恥ずかしいの!
って言っても却下されるに違いない・・・。
つーかそんな事はお見通しさね。この男は・・・。
「照れるひなも可愛い。」
嬉しそうにそう言うとちーちゃんは私にキスをしてきた。
今度は、少し長め・・・。
嬉しいんだけどね、家の中に人が居ると思うと素直に喜べないと言うか、
恥ずかしいというか・・・。
「降ろして・・・。」
「だめ!手放さないって言ったでしょう?」
「意味が違う!!!」
「小さな事に拘らない。拘らない。」
はっはっはっはっは・・・と爽やかに笑いながら、歩みを進めるちーちゃん。
前言撤回!
ごめんさない、織姫様に彦星様!
私にこの男と対抗できるだけの図太い神経を下さい!!!!
「そんなのひなじゃない・・・。」
「心を読むな!!」
「照れない。照れない。」
チュッ!!
天地の 初めの時ゆ 天漢(あまのかわ) い向ひ居りて
一年に 二度会はぬ
妻恋に もの思う人 天漢 安の川原の あり通ふ
出での渡に そほ船の
艫(とも)にも 舳(へ)にも 船(ふな)装ひ
真楫繁貫(まかりしじぬ)き はたすすき
本葉(もとは)もよそに 秋風の 吹き来る
宵に 天の川 白波しのぎ 落ち激(たぎ)つ 早瀬渡りて
若草の 妻が手枕くと
大船の 思ひ頼みて 漕ぎ来らむ その夫(つま)の子が
あらたまの 年の緒長く
思い来し 恋を尽さむ 七月(ふみづき)の 七日(なぬか)の宵は
われも悲しも
(反歌)
高麗錦(こまにしき)紐解き交し 天人(あめひと)の妻問ふ宵ぞ
われも偲はむ
彦星の川瀬を渡るさ小船(おふね)のえ行きて泊てむ川津し思ほゆ
万葉集より(巻十の2089〜2091)
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