be there... Last Scene
あの事件から3日がたった。
美咲は、自分の部屋のベットの上でクッションを抱いて、寝転がっていた。
地上に戻るとすぐに救急車に乗せられ、念の為に一日入院した。
ここ2日は、体がだるく、始終ゴロゴロしていた。
(あ・明日は、事情聴取されるのよね〜〜〜。・・・面倒くさいなぁ・・・。)
天井を見ながら、ぼ〜〜っとそんな事を考えていた。
その時、部屋の子機が鳴った。
モソモソと起き上がり、机の上に置いてある子機に手を伸ばす。
(だれ?)
そう思いつつウィンドウを見る。
      {かすみ自宅}
と、表示されている。
通話ボタンを押し、子機を耳にあてる。
「もしもし。どうしたの?かすみ?」
「ど〜〜したも、こ〜〜〜したもないわよ!!!」
余りの大声に思わず、子機を耳から離す。
「落ち着いて、もう少し、小さな声で話してくれる?」
「落ち着いてなんからんない!!あいつが・・・如月君が学校辞めちゃった!!!」
「えっ!?」
かすみが告げる真実に一瞬頭が白くなった。
「美咲、大丈夫?」
「う・うん。大丈夫・・・。でも、なんで?この前の事件のせい?それなら、彼だって、被害者だわ!」
「そ・そうなんだけどね・・・。」
めずらしく、美咲が声を荒げる。
電話の向こうの かすみ もたじろぐ。
「もしかして、彼が「保持者」だから?」
「あ・・・あ〜ま〜〜、それもあるんだけど・・・、驚かないでね。」
「何を?」
「彼ね、特別機動隊の隊長さんらしいんだわ・・・。」
「・・うそ・・・・・。」
美咲は次の言葉が出てこなかった。
「それでね、昨日のPTA総会で、その事で論争起きちゃって、・・・「そんな危険人物は即刻辞めさせるべきだ!」とか「教育を受ける権利がある!」とかハチャメチャだったらしくて、うちの父親も困ったらしいのよ・・・。」
かすみ の父親は、PTAの役員をしていた。
だから、この手の情報も素早く手に入る。
「それで?」
「うん。でね、皆が騒いでる時に、如月君が入ってきてね、「自分は、今日限りで退学します。明日、正式な退学届けを持ってまいります。お騒がせして申し訳ありませんでした。」って言って、出て行ったらしいのよ。本人が辞めるって宣言したんだから、PTAはそこでお開きよ。」
「じゃあ、今日、届けを出すの?」
「そういうこと。」
美咲は、電話を一方的に切ると、外出時に使うバックを掴み、家を飛び出した。
彼が居る学校に向かって。
 
提出して帰っているかもしれない。提出は本人ではないかもしれない。確実に会えるという保障はない。
しかし、美咲には、彼が学校で自分を待っているという確信があった。
通い慣れた道が酷く長く感じられた。電車も今日は、わざと遅く運転しているのではないかと疑いたくなる程、遅く感じた。
美咲は、駅から学校まで、全速力で走った。家に居た時に感じていた気だるさなど忘れて。綾人が待っている教室まで、美咲は、周りの事に目もくれず、ただひたすら走った。
自分達の教室に着いたとき、彼女はさすがに息が上がっていた。
教室の前方の引き戸を思いっきり開け放つ。その瞬間、美咲の目に飛び込んできたのは、彼女が居ると確信していた彼だった。
綾人は、窓際の一番前の机に浅く腰掛け、ズボンのポケットに両手を突っ込み外を眺めていた。
 
綾人はゆっくりと美咲の方を振り向く。
「おいで。」
やさしく、美咲を促す。
美咲は、息を整えながら綾人の前に歩み寄る。
目の前の綾人の服装に、美咲は現実を突きつけられたような気がした。
その日の綾人の服装は、いつものこざっぱりとした私服ではなく、以前、父の資料の整理をしている時に見た、青い詰襟の特機の制服だった。上着は、袖・裾・詰襟・前の中心部に濃紺のラインがはしるボタンがないシンプルなものだ。綾人の左胸には、一般人では意味不明の彼の所属や階級などを表した色とりどりの配色が施された細長いバッチが輝いていた。
 
今日の彼は、オッドアイの瞳である。
 
「あんなに一生懸命に走って来なくてもよかったのに。」
「み・・・見てたの!?」
「校門から走って入ってくるのをずっと。」
綾人は、そう言うとニッコリ笑った。
美咲は、自分の顔が赤くなるのが分かった。鼓動も何だかさっきより早くなっている。これは、息が整うまで時間が掛かりそうである。
美咲の息が整うまで二人は何もしゃべらなかった。
「あ・あれ?ピアスは?」
やっと、息が整ってきた美咲が左耳にいつもある物が無い事に気づき、問う。
「ランドマークで失くしたから、今、新しいの作ってる。」
「ふ〜〜ん。青くて綺麗な石だったよね。私、好きだよ。あの石。」
「あれはね、ラピスラズリっていう石で、西洋では魔よけなんだよ。」
「へえ〜〜。」
「俺のは、魔よけじゃなくて、力を抑える制御装置だけどね。」
「えっ!?」
美咲は目を見張る。
「俺は人以上に力が強いんだよ。だから、あの小さい石に機械を埋め込んで、普段は抑えてるのさ。他の2つのちからと一緒にね。」
「・・・。それは、ラピスラズリじゃなきゃダメなの?」
「いいや。自分が好きな石なだけ。」
「あっそうなんだ。・・でも、一人で能力が三つって贅沢よね。
私なんて、何にも持ってないのに・・・。」
「・・・・・。(贅沢って・・・・・。)」
綾人は、何も答えられず苦笑いをした。
それを見た美咲は、何か悪い事を言ったような気がして話題を変えた。
「ね・ねぇ、足は平気?」
「ああ。大丈夫。傷口もくっ付いたし。」
「本当!?」
「京が・・・えっと、俺の手当てをしてた人が言ってただろう。俺達は、真山達より治りが早いんだよ。」
「そうだったね。・・・便利ね。」
「ぶっ!!」
綾人は、美咲の純粋な感想に吹き出してしまった。
「な・なによ!笑う事じゃないでしょう。」
「ごめん。さっきから真山が思いもよらない事を言うから・・・。」
「え〜〜〜〜、私は、思った事を言ってるだけよ〜〜。笑われる様な事なんて、言ってないもん・・・。」
「そうだね。ごめん、ごめん。」
綾人は、むくれて下を向いてしまった、美咲の手を取り、広げている自分の足と足の間に引き寄せた。
「でも、キズの治りが早いと気持ち悪がられたけどな・・・。」
そう言いながら、美咲の腰に手を回す。
「あら?それがおかしいのよ。大半の人と違うってだけで、はじき出すなんて。それも個性なんだもの、尊重はしてもはじき出すなんて可笑しいわ!!」
先ほどまでのふくれっつらは何処へやら、美咲は、綾人の腕に自分の手を添えながら、下からオッドアイの瞳を覗き込み、力説した。
 
今の二人を他人が見ると、きっと、長く付き合っている恋人同士に見えるだろう。
それくらい自然だった。
 
(そうか。彼女はこういう考え方だから、俺の事も受け入れられたのか・・・。)
綾人は、彼女の先日の行動に納得がいった
「皆が真山みたいだったら良かったのに・・・。」
綾人は、自分の額を美咲の額に軽くつけ、目を閉じる。
「如月君?」
綾人は何も答えなかった。
美咲も目を閉じる。
しばらく、二人はそのままの格好で沈黙した。
それは、苦痛ではなく、お互いを近く感じる事ができ、大変居心地が良かった。
でも、それにいつまでも綾人は浸っては居られなかった。
手放し難くなる。
綾人は、自ら自分の気持ちに幕を下ろす。それは、誰が強制したわけでもないのだが・・・。
「・・・さっき。」
「うん?」
「退学届を出してきた。」
「・・・・。かすみに聞いた。」
「そっか。」
綾人は、額を美咲から離し、目をゆっくりと開ける。
そこに映し出されたのは、今にも泣きそうに目を赤くした美咲だった。
「どうして?どうして、辞めるの?」
「保持者だから。」
「その力で、私達を助けてくれたわ!」
「桜井にも聞いたんだろう?俺は、特機の人間なんだ。しかも、上の方のね。」
「でも、ヤダ!如月君が居なくなるのは嫌!!」
とうとう、美咲の目からは涙が溢れ出した。
「やだ〜・・・・。」
美咲は、綾人の胸に顔を埋めて泣き出した。
綾人は、胸が痛んだ。誰が好きな女の泣き顔なんか見たいものか。
「・・・美咲。」
やさしい声で呼ばれ、美咲は顔を上げる。彼女は、しゃくり上げて泣いている。
綾人は、美咲の両頬に手を添える。そして、彼女の両目から出る涙を自分の唇で受け止め、軽く彼女の唇に触れる。
少し驚いた表情で美咲が目を開ける。でも、小さく微笑むと又目を閉じる。
今度は、少し強くそして長くお互いの唇が触れ合う。
一旦、離れるが、すぐにどちらともなくお互いを求める。
三度目は、深く、深く、より深く・・・・・・。
 
「はぁ・・・・。」
お互いの唇が離れる時、美咲の口から自然に甘い吐息が漏れる。
美咲が目を開けると、悲しげな左右の色が違う瞳が飛び込んできた。
それが又、美咲を悲しくさせた。
美咲は、綾人の背中に自分の腕を回し、力強く抱きしめる。顔が彼の胸辺りにあるので、規則正しい鼓動が聞こえる。
今日は、硝煙でも血の臭いではない、彼の香りがする。
綾人も自分より小さな彼女を抱きしめる。
今以上の力を入れれば、壊してしまいそうな程の華奢な体を。
いっそ壊してしまおうか、とさえ思ってしまう。
綾人は、自分の口を彼女の耳元に持っていく。
「・・・・安らぎをありがとう・・・。」
美咲は、更にちからを込めて彼を抱く。
綾人が何処にも行かないように。
「ごめんね。・・・・・・さようなら。」
綾人は、この一言を残し、美咲の腕の中から消えた。忽然と・・・・。
美咲は、目を開ける事ができなかった。
今まで、自分の腕の中にいた人物がいなくなった事を認めたくなかった。
もう、会えない事を受け入れたくなかった。
「綾人―――!!」
彼女は、その場に泣き崩れた・・・・・・・。
be there... END
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