君の呼ぶ声が聞こえる。
君が探し求めている姿が見える。
でも、僕は、それに答えることが出来ない・・・。
「生食とA型の血液を早く!!」
「先生!血圧が測れません!!」
「呼吸器レベルがどんどん落ちています!」
「ポータブルを早く持ってきて!」
医療部の処置室は、緊急患者の処置に追われ、戦場のように慌しい。
「刑部!瞳孔が開きかけてるぞ!!」
患者の瞳を検診していた医者が、体中の傷の止血をしている刑部に告げる。
「なに!?」
刑部が、心肺計を見ると、患者の心臓の波形が徐々に弱まっていた。
刑部が同僚を押しのけて、患者の顔に近づき、青白い頬を叩く。
「綾人!おい!!綾人!!しっかりしろ!!」
医療部に運ばれてきたのは、瀕死の状態の綾人だった。
東京湾人工浮島での爆発事件後の捜索活動で、彼は、
水上警察に奇跡的に海に漂っている所を
発見され、応急処置を施され、ヘリコプターでここへ運ばれてきたのだ。
無数の傷に、至る箇所の骨折。
外傷の具合からいけば、内臓系もそれなりにやられていると思われた。
今、彼は、無数の電極が張られ、数本の点滴が施されている。
処置室では、手術前の手当てが医師と看護士達によって懸命に行われている。
しかし、その努力とは反して、綾人の命の灯火は消えかけていた。
彼の鼓動を視覚的に表現している電子音の感覚が長くなってきている。
「レントゲンも終わった!止血も終わった!オペ室へ運ぶぞ!!」
医師の一人が叫んだ時、電子音が「ピーーーーーーーーーーーーー」と、鼓動の停止を告げた。
「綾人!!」
刑部が、綾人の上に馬乗りになり、心臓マッサージを始める。
電子音は、その行為とリンクするが、自発音は発さない。
「戻ってこい!お前が帰るところは、こっちだ!!戻ってこい!!!」
刑部は、呼びかけながら、髪を振りみだし、必死にマッサージを続ける。
綾人は、目を閉じ、仰向けの状態で、暗闇の海にすべてを預け漂っていた。
そんな彼に微かに誰かが呼ぶ声がする。
(誰だ?・・・・もう、放っておいてくれ・・・・・。)
綾人は、声を拒否し、今以上に暗闇に身を任せようとする。
「・・あ・・・・・・・・・・・と。」
声は、そうする事を許さないように綾人に呼びかける。
(・・・眠らせてくれ・・・・・。)
またもや拒否する。
「あや・・・・と・・・・・・あやと・・・く・・・・・。」
(この声は・・・・。)
次第にはっきりとしてくる声に彼は拒否する事を止める。
「綾人君。・・・・綾人君。」
彼を呼ぶ声と声の主の顔が、はっきりする。
綾人は、オッドアイの瞳を一気に開け、叫ぶ。
「美咲!!」
刑部は、顔中、体中汗だくになりながら綾人の心臓マッサージを行っている。
「刑部!開胸しよう!!」
同僚が提案する。
「わかった!」
そう言って、刑部が最後に力強く綾人の胸を押した瞬間、
電子音がリズミカルに鳴り出した。
処置室内に安堵の空気が流れる。
「さぁ今のうちにオペ室に移すぞ!」
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