Way of difference partU Last Scene
2月下旬。
昨夜から早朝にかけて降り続いた雪は、街中を白銀の世界に変えていた。
コンクリートのビルがひしめき合う無機質な都会もこの日ばかりは、幻想的な
輝きを放っている。
空も、前日とはうって変わり、どんよりとした灰色ではなく、何もかもを吸い込んでしまいそうな
真っ青な色をしている。
その景色を綾人は、報告書作成の気分転換に自室の窓辺に立ち、眺めていた。
遠くの景色から、ふと視界の下でチラチラと動く物に視線を移す。
そこには、特機本部の塀と門の辺りを何往復もしている17・8歳くらいの少年がいた。
少年がウロウロしている辺りだけ歩道の舗装が出てきている。
踝が隠れる程の雪が無くなるまで彼は往復していた。一体、いつから居たのだろうか・・・。
(ここに何かの用なのかな?)
彼の行動が気になり、そのまま綾人は少年を眺め続けた。
そうこうしているうちに、警備の人間二人がビルから外へ出て、少年に職務質問を始めだした。
(何か用があるのなら、すぐに入って受付をすれば、嫌な思いもせずに済んだ
だろうに・・・。
入りづらい事でもあるのだろうか?)
ずっと少年を見ていた綾人は、彼の事が気になり、執務室を出て少年の元へ
向かった。
綾人が執務室を後にして、しばらくした後、
「な〜〜〜。綾人〜〜。」
と、相変わらずノックをせずに京が執務室にはいてくる。
しかし、そこに、部屋の主の姿は無かった。
「あれ?どこ行きやがった?」
そう言いながら、彼のデスクへ向かい、立ち上がったままのノートパソコンを覗く。
画面には作成途中の報告書が写し出されている。
(気分転換にどっか行ったのかぁ?)
そして、なんとはなしに、後ろの窓の外へ視線を移す。
そこには、門の内側で二人の警備の人間に職務質問を受ける少年と、
それに歩み寄っていく綾人の姿があった。
なんてことは無い風景に、この時、京は嫌な予感がし、急いで部屋を出る。
「きゃ!!」
荒々しく開けられたドアに、たまたま通りかかった春麗がぶつかりそうになり、
驚く。
「春麗!!一緒に来い!!」
ドアの非礼も詫びず、京は、春麗の腕を取り、走り出す。
京の只ならぬ雰囲気に春麗は何も言わず付いていく。

「どうしました?」
綾人は警備の人間に声を掛けながら近寄る。
「ええ。うちの門の前をこの少年がウロウロしていたので、何か用かと聞いて
いるのですが、何も話さなくて困っているんですよ。」
警備の一人が答える。
少年は俯いて黙っている。
「僕が変わりますよ。お二人は、通常の仕事に戻ってください。」
「いや、しかし・・・。」
「気にしないで下さい。」
綾人は、やんわりと微笑み、仕事へ戻るように促す。
二人は渋々従い、
「では、お願いします。」
という一言を残して、本部の建物へ帰っていった。
「君を上からずっと見てたんだけど、彼らが見つける前からウロウロしてたよね?
何か勇気がいることなの?」
綾人はやさしく声を掛ける。今までの威圧的な声とは違うその声に俯いたまま
だった少年が顔をあげる。
「!!」
顔を上げた少年が綾人の顔を見て驚いた表情になる。
それを見た綾人の顔から笑顔が消える。
「僕に用があったんだね・・・・。」
少年は、何も答えない。
「僕に何の用?」
静かに綾人が問う。
その時、少年の手が上着を捲り、背中に隠していた拳銃を取り出す。
それを震える手で綾人に向かって構える。
少年は震える手と体を歯を食いしばって止めようとするが無駄のようだ。
震えは激しさを増す。
少年は、人に向けて銃を構えるのが始めての様だ。
「誰かに頼まれたんですね。」
向けられた銃に臆することなく、綾人は少年に話しかける。
先週、壊滅させたシンジケートの残党辺りの仕業であろう事が伺われる。
「あ・・・あんたを殺せば、妹が帰って来るんだ!!」
少年は、初めて人を撃つという恐怖を振り払うかのように叫ぶ。

『妹』・・。この言葉に、綾人の中の眠っていた闇が起き上がる・・・。

額に脂汗をかき、必死で振るえる自分を押さえようとしている少年に、綾人は
小さく微笑む。
「そうですか。・・・僕の命で君の大切な人が戻ってくるなら、この命あげますよ。」
自ら殺されようとする綾人の態度に少年は驚き、決心が揺らぐ。
「早くしなさい。僕の体で君の行動が警備に隠れている今がチャンスですよ。
心臓は、ここです。この距離ならはずさないでしょう?」
綾人は、自分の左胸を指差しながら話す。
少年は、ゆっくりとセイフティをはずす。
しかし、トリガーが引けない。人を撃つ事への躊躇いと、妹を救わなければ
ならない事が彼の中で葛藤しているのだ。
それを読み取った綾人が険しい顔つきになり大声を出す。
「さぁ!早く!!」
その荒い声が引き金になる。
「うわあああああああああああああああ!!!」
少年がトリガーを引いた。
綾人はうっすらと笑みを浮かべる。
(樹里・・・。今、逝くよ・・・。)

パン!パン!パン!パン!パン!パン!

6発の銃声が辺り一面に鳴り響く。

建物の正面玄関に辿り着いた京と春麗の目に映ったのは、ゆっくりと後ろに
倒れる綾人の姿だった。
綾人が倒れたその場所は、奇しくも、樹里が綾人の腕の中で絶命した場所で
あった・・・。
「いやあああああああああああああああ!!!!!」
春麗は叫び声をあげ、その場で立ちすくむ。
「綾人!!」
京は、綾人に向かって駆け出す。
春麗の叫び声を聞いた警備の人間数人も外の様子に、京の後を追う。
綾人を撃った少年は、呆然と拳銃を持ったまま立ちすくんでいる。
「綾人!綾人!!」
京は、倒れている綾人の側まで来ると座り込み、綾人を抱きかかえる。
綾人は胸・腹部・腕・口から大量の血を流していた。
それらは、雫となり、白い自然の絨毯に赤い水溜りを作る。
「おい!!綾人!!!何か返事しやがれ!!!」
京は、綾人の体を揺すり、大声で彼に呼びかけるが、オッドアイの瞳は
開かない。
その間にも血は溢れ出でて、綾人の顔色が地面の色と同じくらい白くなっていく。
体温も失われつつある。
8年前のあの時と同じシチュエーションに、京の全身の血が引いていく。
体中が小刻みに震える・・・。
つい、数十分前まで、自分の名を呼び微笑んでいた。
それが、今は・・・・・。

「きさま!!なんてことを!!!」
警備の人間が、少年を取り押さえている。
「早く!医療部に!!」
「誰か、部長に連絡しろ!!!」
「春麗!春麗!!しっかりして!!」
京の後方で職員達の慌てている声がする。しかし、その声は京には聞こえて
いない。
聞こえるのは、破裂しそうな程に脈打つ自分の鼓動だけだ。
(また、失うのか・・・?何も出来ずに、また・・・・・・。)
京の視界が徐々に涙でぼやけて行く。
「おい・・・、目ぇ開けろよ・・・。綾人・・聞こえてんだろ?」
綾人は目を開けることも、答える事もしない。
京の目から涙が溢れ出し、綾人の顔や体に次々に落ちる。
「開けろってば・・・。俺を見ろよ・・・。綾人!!!」
京は、綾人の体を強く抱きしめる。
そして、涙をながしたままの赤い目で空を睨みつける。
「樹里!!綾人を連れて行くんじゃねぇ!!こいつがそっちに行ったら
追い返すんだ!!!」
京の叫び声が、青い空と喧騒の中に消えていく。



――― どうして俺たち別れても出会うんだろうな・・・。
――― それは、お互いがお互いを必要としてるからよ。
――― そっか・・・。
――― そうよ。
――― じゃあ、また、会えるかな?




美咲・・。君とは違う形で出会いたかったよ・・・。




Way of difference partU END
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