梅雨の晴れ間の7月の休日。
久しぶりの晴れ間に銀座の街は、ショッピングを楽しむ家族連れやカップルで溢れ返っていた。そんな中、人が少ないポッカリとした空間があった。人々は、遠巻きに心配そうにその空間を見ていた。
白昼堂々と宝石店強盗が行われたのだ。
犯人は男2人組みで、事が終わり店を出る際、たまたま自分達の前を通り掛かった、カップルを人質に取ったのだ。しかし、カップルの男性を羽交い絞めにしようとした犯人の一人は、簡単に交わされ、しかも、地面に投げ飛ばされた。その時、犯人の手から拳銃が零れ落ち、彼がすばやくそれを拾い上げ、起き上がり逃走をはかろうとする犯人の足をめがけて発砲した。弾は見事命中し、逃亡犯は前のめりに倒れこむ。
拳銃を持った彼は、立ったまま犯人の頭に銃口向けた。[逃げると殺す!]という無言の威嚇であった。
その様子を見ていた、犯人の片割れが叫んだ。
「て・てめぇ、女がどうなってもいいのか!!」
彼は、腰まであるロングヘアーの真っ赤なロングのチャイナドレスを着た女性の首を左腕で少し締め上げ、右手に持っている銃を彼女のこめかみに突きつけていた。
男の脅しも、彼女に突きつけられている銃も彼女の連れには効かなかった。
なおも銃口をもう一人の犯人の頭に定めたまま
「春麗(シュンレイ)、自分で何とかしてください。」
と淡々と言う。
人質になっている春麗と呼ばれた女性は、頬をぷくっと膨らませ、
「お姫様を助けるのは、王子様の仕事でしょう。」
と、アイスブルーとエメラルドグリーンのオッドアイの彼に抗議する。
「あなたが、か弱い女性なら助けますよ。」
「綾人君、冷たい・・・。お姉ちゃんはそんな風に育てた覚えは無いわ・・・。」
「育てられた覚えもありません。」
二人の会話は、この場の張り詰めた雰囲気にそぐわなかった。
緊迫感のカケラもない会話を聞いていた犯人が怒鳴る。
「きさまら、自分らの立場がわかってんのか!!!!」
その時、春麗の首を締め上げていた腕に力が入り、彼女の首がしまった。
同時に春麗が切れた。
「あんたこそ、自分の立場分かってないんじゃないの?」
トーンの落ちた彼女の声が犯人の耳に届いた時、彼女の右手が突きつけられている銃を握っていた。
銃は、白い煙を弱弱しく上げながら、彼女が握っている先からクタッと下に折れ曲がっていった。
「あ・あちぃ!!」
犯人が、余りの熱さに持っていた銃を投げ捨てる。その時、春麗を締め上げていた腕の力が弱り、すぐ様、春麗は身をかがめ、男のみぞおちに肘鉄をくらわせていた。
「ぐはっ!!」
もろに肘鉄を食らった男は、痛む部分を両手で押さえながら倒れこんだ。
「バカは嫌いよ!!」
そう言って春麗が綾人に向かって歩き出そうとした時、固唾を呑んで見守っていた観客から悲鳴があがった。
倒れていた男が、力を振り縛って春麗を後ろから襲いかかろうとしていたのだ。
しかし、
「うぎゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
素早く反応した綾人に肩を撃たれ、今度は、地面でのたうち回るハメに
なっていた。
「ほんっと、バカだわ。」
彼女の足元で呻いている男にあきれた顔で呟くと、命の恩人(?)をキッと
睨みつけ、
「あんたね〜、バカみたいに危機感のない野次馬に当たるのは構わないけど、私に当たったらどうするのよ!!」
と、叫んだ。綾人はそれに怯む事なく、
「僕は、的をはずしたことなんてありませんよ。」
と、しれっと言い放った。
パトカーの音がした。やっと、所轄の警察が到着したらしい。
私・制服の警官が野次馬を掻き分けやってきた。
「やれやれ、この事件の特別手当はつくのかしら?」
自分達の身分と、簡単な事件の顛末を話し、後日、報告書を提出するということで、所轄の現場での事情聴収を逃れた春麗がため息まじりに言う。
この日、二人は、一週間前に起こった、保持者の犯罪グループが起こした仲間割れ殺人の目撃証言を取りに行き、その帰りに非保持者の犯罪に巻き込まれたのだ。
「僕達は公務員ですよ。管轄外の仕事だからって、でるわけないでしょう・・・・。」
「チッ。」
春麗は舌打ちした。
二人は、自分達の車とバイクを止めた地下駐車場に向かいながら会話を
していた。
「綾人は、明日学校なんでしょう?証言の方もバカ二人組みの方も私が報告書書いとくから、今日は、帰れば?最近、ろくに休んでないでしょう?」
地下駐に着き、愛車の真っ赤なDUCATI SUPERBIKE996sに乗り込もうとしている綾人に春麗が腕組をしたまま提案した。
「・・・そうですね。今日はお言葉に甘えて、そうさせてもらいます。すみません。」
「いいのよ。お互い様だもの。・・・でも・・・」
春麗が突然笑い出した。
「なんですか?突然。」
綾人が訝しげに聞く。
「だって、犯罪保持者に恐れられている如月綾人が、一介の高校生なんて知れたら、奴等、びっくりするでしょうね〜。」
そう言って、また、笑い出す。
「ほっといて下さい。」
そう言いながら、綾人はヘルメットを被り、バイクのエンジンを掛ける。
「何かあったら携帯に連絡下さい。後のこと、よろしくお願いします。」
綾人は、春麗にそう告げると地下駐を出て行った。
「あの華奢な体(といっても筋肉隆々だけど・・・。)で、あのモンスターバイクをよく乗りこなすわね〜〜〜。感心するわ。さてと、折角、銀座まで出てきたんだし〜、私も買い物してから本部にもどろうかしら。」
春麗は、そう言うとウキウキとした軽い足取りで、目指すデパートへ向かった。
先日、クラスメイトの話題になっていた『如月綾人』は、特機のメンバーで、一癖も二癖もあるメンバー達を束ねる隊長であった。しかも、彼は、近年稀にみる強いサイコキネシスを持っており、通常は、力を100分の1に押さえ込む制御装置を左耳に着けている。
青いラピスラズリのピアスがそれである。
普通、保持者の能力は一つだが、稀に二つ三つ持っている者もいる。彼もその一人で、接触テレパスとテレポーテーション(半径5m)を持っていた。
彼は、この点においても、与えられすぎていた。
他のメンバーも紹介しよう。
先程、綾人と一緒に行動していた『春麗』。フルネームは『角川 春麗』。日本人の父と中国人の母を持つ。発火能力保持者で、綾人共に隊設立当時からのメンバー。姐さん気質の26歳である。
新宿で走り疲れていた男は『牧瀬 京』。念動力保持者。(綾人程ではないが、そこらへんのヤツよりはうんと強い。)彼は、力を使う前に口と手と足を出すタイプ。実戦メンバー唯一の妻帯者。28歳。
新宿で京の頭に直接話し掛けていた女の子は『渡辺アリス』。テレパシー保持者。(有効範囲:5km)相手の体に触れる事により、相手の精神世界に潜入する事が可能。金髪碧眼の元アメリカ人。15歳。京とはいつも言い合っている。
春麗曰く「ただの兄妹ゲンカよ。」
まだ、登場していない新人の『高尾 陽介』。テレポーテーション保持者。(有効範囲:50km)彼の能力は、戦闘向きではないので、ナイフファイトを得意としている。温厚な性格の21歳。(余談であるが、陽介が入隊した日、京が「じゃあ、陽介がいれば、国内旅行交通費タダ?」と、発言し、アリスに後頭部を分厚いファイルで力一杯叩かれていた・・・・。)
以上が現在の特機の実戦メンバーである。
保持者であれば誰でもがメンバーになれるわけではなく、保持能力の高さと格闘能力の高さも要求されるので、採用される人数は限られてくる。最も、就職困難な職業であろう。
とはいえ、まともな手続きを踏み入隊したのは、春麗と陽介の二人だけで、あとの者は、なにかしらの事件を経て、入隊している。
その話はまた、追々・・・・。
そして、この特別機動隊全てを統括するのは、渡辺謙二本部長(50)である。
「アリス」の養父でもある。警察内でも数少ない、保持者の理解者で、必要とされて生まれた組織にも関わらず、孤立感のある隊をなんとか融合させようと日々努力している苦労人である。 |