Way of difference partT Scene6
綾人が青山墓地へ亡き人の誕生日を祝いに行った日と同じ日、
かすみと美咲は原宿のとある店のバーゲンに来ていた。
二人とも、肩から下げられる様に紐が長めについている特大の紙袋を一つずつ肩から下げて、往来を歩いていた。
その往来の中に、彼女達と同じ店の紙袋を持った人達が何人も見受けられる。
「いや〜〜、良かったね〜〜。掘り出し物多くて!」
かすみが満足げに美咲に話しかける。
「そうね。気がつくとこんなにたくさん買ってるし・・・。」
そう言いながら、美咲は、軽く自分の紙袋を叩く。
「でも、人が多くて疲れたね。どこかで休まない?」
「この辺で休むところね〜〜〜。」
かすみは、顎に右の人差し指を置いて考え、
「じゃあ、代々木公園に行かない?」
と提案する。
「あっいいね!!今日は、お天気がいいから、気持ちいいかも!!」
「じゃあ、決まり!!」
二人は、にっこりと微笑み合い、そして、表参道を代々木公園方面へ
歩き出した。
平日なので、原宿界隈も休日に比べれば人出が少なく歩きやすい。
公園までは10分程歩けば着く。
二人は、バイト先での出来事を話しながら歩いていた。

代々木公園も休日に比べると人が少ない。
それでも、小さな子供を連れた母親達や、絵画教室のおじ様・おば様方や、
クラリネットやトランペットなどの練習をする若者達など思い思いに過ごす人達
の姿があちらこちらに見受けられた。
二人は、奥にある広大な芝生のエリアに足を運ぶ事にした。
「美咲〜。私、トイレ行って来る。どこか、適当に木陰見つけて座っててよ。」
「分かった。荷物、持ってようか?」
「大丈夫!!」
かすみは、遠くの方に見えるバンガロー型のトイレに向かって走り出した。
美咲は、端と真ん中の所々に数種類の木が植樹されている芝生エリアを
見渡す。
そこにも、木陰で本を読んだり、恋人と語らっている人達がいた。
(あれ?もしかして・・・。)
その中に、見知った人物に似た人が木陰で昼寝をしていた。
人違いかもしれないが、とりあえず近寄って確認してみる事にした。
まるで、場所を探している風にして・・・。
(やっぱり、如月君だ・・・。)
美咲の足元で綾人は、木陰の芝生の上で、ネクタイを解き、首元のボタンを
外した格好で眠っている。
綾人は、青山墓地の帰りに久しぶりの気持ちいい休暇だったので、ここに寄り、一休みしていたのだ。
(なんだか、つらそう・・・。お仕事大変なのかな・・・。)
綾人の寝顔はやはりいい顔をしていないようだ。
美咲は、綾人を心配そうに見つめながら、起こさないように静かに荷物を
芝生の上に下ろし、自分も綾人の腰の辺りに座る。
その時、綾人の目がゆっくりと開き、空の青と草原の緑のオッドアイがのぞく。
傍らに人の気配がし、瞳だけを自分の右側に動かす。
そして、そこに居る人物を見定めると、慌てて上半身を起こす。
「真山!?」
「あ・・あの、起こしちゃった?ごめんね・・・。」
「あ・・いや・・・。」
二人は押し黙ってしまう。
二人の距離はほとんど無いと言っていいほどしかなかった。
しばし何も語らず、見つめ合ったままの二人であったが、その沈黙を綾人が破る。
彼の右手が彼女の左頬に触れ、親指で頬を撫でる。
「・・・綺麗になったな、美咲。・・・パーティーではびっくりした・・・。」
綾人が優しく微笑みながら静かに囁く。
美咲は、左の頬に添えられている彼の右手に自分の左手を重ねながら
「綾人君こそ・・・。かっこよくなってて、しかも、あんなすごい礼服着てて
驚いたよ・・・。」
と小さく微笑みながら言う。
その微笑は、2年以上振りに彼女が見せる心からの幸せな笑顔であった。
綾人の左手が美咲の右手を取り、そっと自分の方に引き寄せ、顔を彼女へ
近づける。
美咲は、驚く事無く、自然に少し上を向き、目を閉じ彼を待つ。
二人の唇が強く重なる。
二人共、理性ではいけない事だと分かっていても、感情が激しく求めてしまう。
その激情を今の二人は抑える事が出来なかった。
美咲の胸に甘く温かな感情が広がった。

その光景を、トイレから出て、トイレの近くの自販機で買った缶コーヒーと緑茶を手に遠くからかすみが見ていた。
(あ゛あ゛〜〜〜・・。どのタイミングで出て行けば、馬に蹴られないんだろう・・・。)
心底困っていた。
あと一人、かすみとは違う角度から、黒の長髪・黒のスーツ・黒のサングラス姿
の男性がこの光景見ていた。不気味な微笑みを湛えながら・・・。


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