Way of difference partT Scene7
美咲は、あの後、大学から一人暮らしを始めたかすみのワンルームマンション
に来ていた。もともと、この日は泊まる約束をしていたのだ。
二人は、お互いに買ってきた服を着て見せあいっこをし、互いに互いを
褒めあっていた。
付き合いの長い彼女達は、お世辞ではなく、本気で褒めあっている。
一通り見せ終わると、綺麗に紙袋にしまい、かすみはアイスコーヒーを
煎れてきた。
「いや〜、意外な所で美青年に会ったね〜〜。」
かすみは驚いたように美咲に言う。
「本当だよね。」
美咲も驚いたように答える。ちょっと、心苦しさを感じながら。


あの後、かすみは、自分の居るところより更に後ろの遊歩道まで戻り、
わざと大声で「美咲〜〜〜。どこ〜〜〜。」と言って、さもたった今トイレの辺り
から戻って友人を探している振りをした。
そして、美咲の呼び声で友人の居場所と綾人の存在を知った振りもした。
努力の甲斐があって、馬には蹴られなかった。


「いいのかね〜、特機の隊長さんがあんな所で昼寝なんて・・。」
かすみがアイスコーヒーを啜りながら言う。
「今日は休暇だって言ってたよ。気持ちいい日和だったから、ついつい
寝ちゃったんだって。」
そう言って美咲はニッコリ微笑む。
その笑顔は、かすみが2年以上振りにみる友人の本当の笑顔だった。
それを見たかすみは、疑問が確信に変わり、いつかは聞いてみようと
思っていた事を美咲に話し出す。
手に持っていた、グラスをガラステーブルの上に置き、姿勢を正す。
「あのさ・・・、美咲って、本当に芝山の事好き?」
「え!?」
突然の問いに美咲は驚く。
いつもの冗談かと思ったが、かすみの顔が真剣なのでそうでは無さそうだと
悟る。
「どうなの?・・・気を悪くしないでね。傍から見てると、そういう風に見えない
のよ。」
かすみの真剣な目に、なんだか後ろめたさを感じ、美咲は無意識に俯く。
「好きよ・・・・。」
そう答える声もなんとなく頼りない。
「どのくらい好きなの?ちゃんと好きなの?子供の付き合いじゃないのよ。
愛してるってレベル?」
かすみは捲くし立てる様に聞く。
「も・・もちろん・・・・。」
今回も美咲の声は頼りない。
「じゃあ、芝山に処女あげられるの?」
かすみのこの一言に美咲が顔を上げる。
かすみの顔が半分怒っている。
「高校の時は受験で大変だったし、その後は、芝山は全寮制の警察学校
入って、訓練・訓練の毎日で会うことすらままならなかったけど、これからは
違うでしょう?お互い時間さえ合えばいつでも好きな時に会えるわ。もう、
ネンネの子供じゃないのよ、お互い。いい大人が何も無いはず無いでしょう?」
美咲は黙って聞いている。
かすみは駄目押しで尋ねる。更にキツイ口調で。
「初めてが、芝山でいいのね?」
「だいじょう・・・・。」
美咲は、笑顔で「大丈夫。」と言いたかった。しかし、昼間の綾人との事が
鮮やかに蘇り口に封印をされたように言葉が出ない。
自分を見つめるアイスブルーとエメラルドグリーンの瞳。
熱い口付け。
誠とするキスの時には感じた事がない甘い感情。
「・・・・大丈夫じゃないかも・・・・。」
美咲は、知らず知らず涙を流していた。
かすみは、自分の席を立ち、美咲の隣に座りなおし、友人の頭を優しく撫でる。
「ごめん。きつい事言って・・・。でも、私、美咲にちゃんと認めてもらいたかった
んだ。誰が大切なのか。」
美咲は、かすみの言葉に驚いた表情で、涙を流したままの目を向ける。
「美咲さ〜、高2の時から如月君の事が好きだったんだよね?でも、美咲の事
だから、叶わない恋ならあきらめようと思って、今まで通り芝山の側に居たんで
しょう?」
「かすみ・・・・。」
「私もね、美咲がそうしたいなら、そうれでもいいかなって思ってたんだ。
時間と芝山が如月君の事を忘れさせてくれるかもとも思ったのよ。
でも、そんな事はなくて、美咲はずっと作り笑いしてて・・・。でも、如月君の前だと
ちゃんと笑ってたから、美咲には、彼じゃなきゃ駄目なんだって確信したのよ・・・。」
「・・・でも、彼とは・・・。」
そう言いながら、美咲は自分の手で涙を拭う。
「美咲。叶わなければ恋はしてはいけないわけではないわよ。」
かすみが美咲の両手を自分の両手で包み込む。
「この世の中、全部の恋が叶うわけではないわ。つらいと思うし、人によっては
後ろ向きだと言う人もいると思うけど、思い続ける恋もあると思うのよ。」
「かすみ・・・。」
「幸せの形なんて人其々だと思うの。美咲は、どっちが幸せ?芝山の側に
偽って居る事と、如月君を想って過ごすのと。」
かすみは、優しい目つきで美咲を見つめる。
「それは・・・・・。それは、綾人君の事だけを思い続けていく事だわ。」
美咲は満面の笑みで友人に答える。
それを見たかすみもいつもの元気な笑顔になる。


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